先日、年商3億円ほどの製造業の社長からこんな相談を受けました。「報酬は1000万円もらってるのに、毎月の手取りが50万円台しかない。なんか損してる気がして…」
その感覚、正しいんです。むしろ、その「損している感」をそのままにしている社長が多すぎる、というのが私の実感です。
1000万円稼いでも手元に残るのは60%台
役員報酬1000万円から何が差し引かれているか、一度整理してみましょう。
まず所得税と住民税。この年収帯では合計して30%前後の税負担になります。さらに社会保険料(健康保険+厚生年金)が、役員にもしっかりかかってきます。本人負担分だけで月10〜15万円規模、年間では120〜180万円を超えるケースも珍しくありません。
結果として、1000万円の報酬が手元に届くのは600〜650万円台。「40%近く取られている」という感覚は、数字として正しいのです。報酬を高く設定しているのに、手取りが思ったより増えない理由がここにあります。
報酬を「下げる」と手取りが「増える」逆転の仕組み
ここが多くの社長が見落とすポイントです。
社会保険料は報酬に比例して増えていきます。厚生年金には上限がありますが、健康保険料は標準報酬月額に応じて上がり続けるため、報酬が高いほど負担も重くなります。所得税・住民税も累進課税なので、報酬が増えれば増えるほど税率が上がる構造です。
では、年収800万円から600万円に見直したらどうなるか。社会保険料の本人負担が年間40〜60万円程度減少するケースがあります。所得税・住民税の軽減分を合わせると、手取りは「報酬額を下げたのに増えた」という状態になり得るのです。初めて聞いた社長は、たいてい「本当に?」と目を丸くします。
削った報酬は「法人の貯金」として残す
「報酬を下げたら会社のお金が増えるだけじゃないか」と感じた方、そこが設計の核心です。
報酬を下げた分は法人の利益として残ります。法人税率は中小企業向け軽減税率を使えば実効税率20〜25%前後。個人の所得税・社会保険料で合計40%超持っていかれるよりも、法人に留保しておくほうが圧倒的に税効率がよいのです。
個人で受け取るより法人に残す。この発想の転換が節税設計の第一歩になります。
法人に貯めたお金の「最強の出口」が役員退職金
法人に蓄えた資金を将来どう受け取るか。ここがこの設計の醍醐味です。
役員退職金には「退職所得控除」という非常に手厚い控除があります。勤続年数20年超の場合、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」という計算式で控除額が決まり、さらに控除後の金額を2分の1にしてから課税されます。
具体的に見てみましょう。勤続30年で退職金3000万円を受け取る場合、退職所得控除は1500万円。残り1500万円をさらに2分の1にした750万円が課税対象です。現役時代に毎年給与として受け取っていたら、同じ金額でもはるかに重い税負担になっていたはずです。
「高い報酬を毎年もらい続ける」より「適正な報酬+退職金で受け取る」設計のほうが、生涯手取りで見たときに大きく差が開くことがあります。
注意点:下げすぎにも落とし穴がある
もちろん、注意点もあります。
社会保険料を下げると、将来受け取る年金額も下がります。老後の生活設計との兼ね合いで、どこまで報酬を見直すかは個人によって異なります。また、役員退職金の「適正額」は功績倍率をもとに算出しますが、過大な額は税務署に否認されるリスクがあるため、根拠のある設計が不可欠です。
さらに役員報酬の改定は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内しか認められていません。決算直前に気づいても、変更できるのは翌期からです。「来期こそは」と思うなら、今から動いておく必要があります。
「最適な報酬額」は一人ひとり違う
年齢・会社の規模・老後の資産計画・将来の退職金設計。これらをトータルで考えた上で、「今の自分に最適な役員報酬はいくらか」を試算することが重要です。
「報酬を下げる=手取りが減る」という思い込みのまま、毎年数十万円を余分に払い続けている社長は少なくありません。まずは現在の報酬額と社会保険料の明細を手元に用意して、一度税理士に試算を依頼してみてください。数字を見れば、次に打つべき手が見えてきます。
来期の報酬改定を見据えるなら、動き出すのは早いほどいいです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。