先日、こんな相談を受けました。

「あと2年で引退しようと思っているんですが、顧問税理士から役員報酬を変えた方がいいと言われて。でも、具体的に何がどう変わるのか、いまいちピンとこなくて…」

58歳の田中社長(仮名)は、製造業を営むオーナー経営者です。月280万円の役員報酬をずっと続けてきました。事業は安定していて、会社にも余裕がある。それだけ聞くと順調そのものですが、実は税負担が相当な重さになっていたんです。

手取りで計算すると、意外と残らない

月280万円の役員報酬。所得税と住民税の合計が最高税率55%に近いゾーンに入ってきます。実際の手取りは月約160万円ほど。年間3,360万円を受け取っているのに、手元に残るのは約1,920万円です。

「稼いでいるのに、思ったより手元にお金が残らないんですよね」という声は、役員報酬が高い社長からよく聞きます。給与所得は累進課税の構造上、受け取れば受け取るほど税率が跳ね上がる仕組みになっているので、ある意味当然の結果ではあるんです。

顧問税理士が提案した「組み替え」とは

田中社長の顧問税理士が提案したのは、シンプルな方法でした。

月280万円の役員報酬を180万円に引き下げ、浮いた100万円を毎月会社に留保する。これを引退までの2年間続けると、2,400万円が会社に積み上がります。そして引退のタイミングで、その2,400万円を「役員退職金」として受け取るという設計です。

同じ2,400万円でも、給与として受け取るか退職金として受け取るかで、税の計算方法がまったく違います。そこが、この話の核心です。

退職金の税計算が「破格に優しい」理由

退職金には、2つの大きな優遇措置があります。

ひとつは「退職所得控除」。勤続年数に応じた控除額が設けられており、長年会社を経営してきた社長にはかなり大きな控除が適用されます。勤続20年超の場合、800万円に加えて1年ごとに70万円が上乗せされます。勤続30年なら控除額は1,500万円。2,400万円からこれを引くと、課税対象はまず900万円まで圧縮されます。

さらに「1/2課税」という優遇も。退職所得控除後の金額をさらに半分にして課税計算するルールです。つまり課税対象は900万円の半分、450万円になる。

同じ2,400万円でも、給与として毎月受け取った場合と比べると、手取りの差は約800万円にもなりました。田中社長にとってはこれが、引退前の最後の大きな節税になったわけです。

注意点:役員報酬の変更は「期首3ヶ月以内」が鉄則

ひとつ重要なことがあります。役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内に変更しないと、変更前後の差額が「損金不算入」になってしまいます。つまり、思い立ったときに好き勝手に変えられるわけではありません。

田中社長が動けたのは、次の決算期の開始に合わせて準備ができたタイミングだったからこそ。期中に思い立った場合は、その年度の変更は見送って次の期首を待つ必要があります。「やろうと思ったら、もう今期は無理」ということが起きやすいので、早めに税理士と話しておくことが大切です。

また、退職金の「不相当に高額な部分」は損金算入が認められません。在職年数・最終報酬月額・同業他社の水準などから算定される「功績倍率」が判断基準になります。設計は必ず税理士と一緒に進めてください。

「まだ先の話」と思っているうちに動く

50代後半の社長に話を聞くと、「引退前にやっておけばよかった」と後悔する節税の筆頭が、この役員報酬の組み替えです。

準備期間が長いほど留保できる金額が増え、手取りの差も大きくなります。引退まで5年あれば6,000万円、3年なら3,600万円の積み立てが可能です。動くのが早いほど、その差は広がっていきます。

現在の役員報酬の水準と引退の時期がだいたい見えているなら、今すぐ顧問税理士に「退職金スキームの試算をお願いしたい」と伝えてみてください。シミュレーションだけでも、驚くような数字が見えてくるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。