先日、ある経営者仲間のグループチャットに衝撃的なメッセージが届きました。「税務調査で1,200万円の追徴が来た」——そのひとことで、グループが静まり返りました。
詳しく話を聞く機会があったので、今日は守秘義務の範囲内で、できるだけ正確にお伝えします。読んでいただければ、きっと「他人事じゃない」と感じるはずです。
創業社長の引き継ぎで発覚した「過大支給」
対象は年商5億円前後の製造業の社長。創業から20年以上、会社を育ててきた方です。数年前に息子さんへ経営を引き継ぐタイミングで、ご自身は退任し、退職金を受け取りました。
税務調査が入ったのはその翌年。対象は直近3年分。調査員がまず目を向けたのが、その退職金でした。
役員退職金の計算は「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」が一般的な方式です。この功績倍率、中小企業では2〜3倍が相場とされていますが、このケースでは最終月額報酬の3倍を大きく上回る設定になっていました。
税務署の判断は明快でした。「相当な金額を超えている」として、超過分を全額否認。法人税法第34条に基づく「過大な役員給与等」の認定です。
1,200万円の内訳——数字の重さを見てください
追徴額の内訳はこうなっています。
まず本税(法人税の追徴)が800万円。次に重加算税が本税の35%で280万円。さらに延滞税が120万円。合計1,200万円、一括払いです。
重加算税というのは、単純なミスや解釈の違いではなく、「意図的な隠ぺいや仮装があった」と認定されたときに課される、罰則的な性格の税です。通常の過少申告加算税(10〜15%)よりはるかに重い35%という税率が適用されます。
なぜ重加算税がついたか。退職金を決定した取締役会の議事録が存在しなかったからです。「いつ」「いくら」「なぜその金額か」を記録した書類がなければ、税務署には「事後的に作られた数字」に映ります。そこで重加算税の適用に至ったのです。
一手間で防げた。後になればわかること
この話を税理士の知人にしたとき、「これ、ちゃんと準備しておけば防げましたね」とすぐに言われました。必要だったのは、ふたつのことだけです。
ひとつは、功績倍率を適正な水準に設定すること。業種や規模にもよりますが、中小企業では3倍以内が無難なラインとされています。それを超える場合は、なぜその倍率が妥当なのかを説明できる資料が必要になります。
もうひとつは、退職金を決定した取締役会議事録をきちんと残しておくこと。「いくら支給するか」「その根拠は何か」を、決定した時点の書類として保管しておく。これだけで、税務調査での説明がまったく変わります。
議事録は形式的なものと思われがちですが、税務調査の現場では「証拠書類」として機能します。紙一枚が1,200万円を分けた、それがこのケースの本質です。
退職金のタイミングは税務署も注目している
役員退職金は、会社が自由に決められるように見えて、実際には税法で厳格にチェックされます。
特に目を向けられやすいのは、「創業社長が後継者に引き継ぐタイミング」「役員が退任して顧問に移行するタイミング」です。大きなお金が動く場面は、税務署も当然把握しています。
業績が好調で内部留保が厚い会社がこのタイミングで大きな退職金を支給すると、節税目的の支給と見なされやすい。功績倍率が高く、議事録もないとなれば、重加算税の対象になるリスクが一気に高まります。
「うちは大丈夫だろう」と思っている社長ほど、実は危ない。それがこのケースから学べる最大の教訓です。
今期中に整えておきたいこと
まだ退職金規程(役員退職慰労金規程)を作っていない会社は、ぜひ今期中に整備することをお勧めします。規程には最低限、功績倍率の計算式、支給の基準、取締役会での決議の要件を明記してください。これがあるだけで、税務調査での説明は格段に楽になります。
あわせて、取締役会の議事録を定期的に残す習慣もつけてください。月に一度でも構いません。記録があるかないかで、税務調査での扱いはまったく変わります。
そして何より、退職金の設計は事前に顧問税理士と相談して進めること。「決めてから報告」ではなく「決める前に相談」が鉄則です。計画段階から関与してもらえれば、適正な功績倍率の設定も、必要な書類の整備も、スムーズに進められます。
退職金規程も議事録もまだ手つかず、という会社は、今期の決算が締まる前に一度、顧問税理士に現状を確認してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。