先日、食品卸売業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。

「息子への承継も考えているんだけど、最近M&Aの話も出てきて。うちの株価ってどのくらいになるんだろう」

後日、決算書を拝見したとき、思わず「もったいない」と感じました。少し手を打つだけで、株価を大きく圧縮できる状況だったからです。

非上場の中小企業の株価は、上場企業のように市場で決まるわけではありません。「財産評価基本通達」という国のルールに従って計算されます。つまり、仕組みを理解していれば、合法的に株価を引き下げることができるんです。

M&Aや事業承継を控えて「何もしていない」という社長は、数千万円単位で損をしている可能性があります。今日は、実務でよく使われる株価引き下げ策を3つお伝えします。

第3位:含み損のある資産を今のうちに売る

意外と見落とされがちなのが、会社が保有する「含み損資産」の活用です。

10年前に1,000万円で買った有価証券が今は600万円の価値しかない、というケースはよくあります。このまま保有し続けても、帳簿上は取得価額のまま。でも売却すれば、400万円の損失を確定させることができます。

損失が出れば純資産が減り、株価算定の基礎となる「純資産価額」が下がります。シンプルですが、効果は確実です。

ただし、M&Aの直前に慌てて売ると「株価操作では?」と買い手から疑義を持たれることもあります。できれば1〜2年前から計画的に動くのが理想的です。

第2位:直前期の利益を圧縮する

非上場株式の評価には「類似業種比準価額方式」というものがあります。同業の上場企業と比較して株価を計算する方法で、計算式の中に「1株当たり利益」という要素が含まれています。

この数字を下げれば、理論上は株価が下がります。合法的な経費の前倒し計上や役員報酬の見直しなどで、課税所得を圧縮するのが基本的なアプローチです。

重要なのは「直前期」というタイミングです。類似業種比準価額の計算にはM&A直前の決算期の数字が使われるため、売却のスケジュールから逆算して1期前の決算を意識する必要があります。準備が遅れると、この方法は使えなくなってしまいます。

第1位:役員退職金を支給する(最強の一手)

3つの中で最も効果が大きく、しかも一石二鳥になるのが「役員退職金の支給」です。

役員退職金は、適正な金額であれば全額損金算入できます。会社の利益を減らしながら、同時に現預金(純資産)も減らせる。利益比準要素と純資産の両方を同時に圧縮できる、非常に効率的な手法です。

退職金の計算式は「最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率」が基本です。月額報酬100万円、在任30年、功績倍率3.0であれば、最大9,000万円の退職金を支払うことができます。これだけで純資産が大きく減少し、株価が半分近くになるケースも珍しくありません。

ただし、「実際に退任している実態があること」が大前提です。社長の肩書を外しただけで実質的に経営を続けているような場合は、税務上否認されるリスクがあります。

3つを組み合わせれば、株価50%減も現実的

これらの手法は単独でも効きますが、組み合わせることで効果が格段に大きくなります。

たとえば、含み損資産の売却で純資産を圧縮しつつ、役員退職金の支給で利益と純資産を同時に削る。この流れを2〜3年かけて計画的に実施すれば、株価を半分以下に抑えることも不可能ではありません。

何より大切なのは、タイミングです。M&Aの話が出てから慌てて動くのでは手遅れになることが多く、税務的にも不自然に映ります。「売却はまだ先の話」と思っているうちに動き始めた社長ほど、最終的に有利な条件で交渉を進めています。

会社を売ることを少しでも考えているなら、まず自社株価がどのように計算されているかを把握するところから始めてみてください。現状を知るだけで、打てる手が見えてきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。