先日、創業16年の建設会社を後継者に引き継ぐ準備を進めていた社長から、こんな相談を受けました。「退職金を3,000万円受け取ろうと思っているんですが、税金ってどのくらいかかりますか。給与と同じだったら1,000万円以上持っていかれますよね…」。

少し心配そうな顔をされていたので、その場で計算してみました。結果は、税金ほぼゼロ。その社長の手元には、2,800万円以上が残ることになったんです。

同じ3,000万円を受け取るのに、なぜこれほど差が出るのか。今日はその仕組みをお伝えします。

退職金が特別に優遇されている理由

退職金には「退職所得控除」という強力な控除制度があります。長年会社を支えてきた人への国の配慮とも言えるもので、一定額までは課税されません。

控除額の計算式はシンプルです。勤続年数が20年以下なら「40万円 × 勤続年数」、20年を超えると「800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)」になります。

勤続25年なら控除額は1,150万円、30年なら1,500万円、35年なら2,050万円。年数が増えるほど控除額が膨らんでいく仕組みです。

「2分の1課税」がさらに税負担を下げる

仮に退職金が控除額を上回っても、退職所得には「2分の1課税」という特別ルールがあります。控除後の残額の半分にしか税率がかからないんです。

具体的に計算してみましょう。勤続30年・退職金3,000万円のケースです。

退職所得控除は1,500万円。差し引き後の残額1,500万円のうち、課税されるのはその半分の750万円です。この750万円に適用される所得税率は23%。速算表で計算すると、所得税+住民税の合計はおよそ150万円。3,000万円に対しての実効税率は約5〜6%です。

同じ3,000万円を役員報酬として受け取った場合、社会保険料も含めると手取りは1,700万円台まで落ちることがあります。退職金として受け取れば2,800万円台。その差は1,000万円を超えます。設計ひとつで、手元に残る金額がこれだけ変わるんです。

控除の範囲内に収めれば課税ゼロも現実

最も税負担を抑えられるのは、退職金の金額を退職所得控除の範囲内に収めるケースです。たとえば勤続35年なら控除額は2,050万円。退職金をこの金額以下に設計できれば、課税額はゼロになります。

「それでは少なすぎる」という方でも、2分の1課税のおかげで実効税率はかなり低く抑えられます。冒頭の社長のように、3,000万円受け取って実質的な税負担が6%以下というのは、決して珍しくありません。

設計前に確認しておきたい3つのこと

退職金の節税効果は魅力的ですが、設計を誤ると想定外のリスクも出てきます。

まず、勤続年数は「役員に就任した日」から計算します。会社の創業日ではありません。若いうちから取締役に就任しておくことが、将来の控除額を最大化する第一歩です。

次に、退職金の金額は「不相当に高額」と税務署に判断されないよう、功績倍率法などを使って根拠のある金額にしておく必要があります。根拠なく高額にすると、法人税の損金に算入できない部分が出てきます。

もう一点、退職後5年以内に別の会社から退職金を受け取ると、金額を合算して計算するルールがあります。複数の会社を経営している方や、グループ会社間で役員を兼任している方は特に注意が必要です。

まず「役員就任日」を確認することから

退職金の節税設計で、今すぐできる第一歩は「役員就任日を確認すること」です。登記簿謄本や取締役会議事録を引っ張り出して、いつ取締役に就任したかを調べてみてください。

その日から現在までの年数が、退職所得控除の計算ベースになります。30年を超えているなら、控除額はすでに1,500万円以上になっているはずです。

引き継ぎや廃業を考え始める前に、一度退職金の設計を専門家に相談しておくことをおすすめします。タイミングを逃すと取り返しがつかないケースもありますから、早めに動いておくに越したことはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。