先日、ある製造業の社長から電話がかかってきました。声が上ずっていて、尋常でない様子です。

「事業承継したはずなのに、税務署から税金を払えって通知が来た。どういうことなんだ……」

話を聞いてみると、息子さんへの株式承継から2年後に、息子さんが体調不良で一時的に代表を退いたとのこと。それだけで、猶予されていた贈与税が全額請求されたのです。

「猶予」は「免除」ではない

事業承継税制を使うと、自社株を後継者に渡す際の贈与税・相続税が「猶予」されます。

この制度を活用した社長の中には、「税金は消えた」と思っている方が少なくありません。ところが正確には違います。あくまでも「払わなくていい期間を作ってもらっている」にすぎないのです。

条件を満たし続けることで、最終的に免除に変わる仕組みですが、途中でひとつでも条件を外れると、猶予されていた全額が一括請求されます。

特に危ない「承継後3年以内」

後継者に株を渡してから3年以内は、とりわけリスクが高い時期です。

この期間中に後継者が代表を退任すると、猶予はその瞬間に取り消しになります。病気による療養、経営環境の変化による交代、あるいは株を一部でも第三者に売却した場合も同様です。

取り消しになると何が起きるか。猶予されていた贈与税または相続税の全額に加えて、猶予期間中に発生した利子税(年利約2.4%)が上乗せされ、一括で納付しなければなりません。

たとえば猶予税額が2億円あって3年が経っていたとすると、利子税だけで約1,440万円になります。合計で2億1,440万円超の請求が突然やってくる、というイメージです。

「特例措置」の期限は2027年末

現行の事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2種類があります。

特例措置のほうが適用要件が緩く、猶予割合も高いため、多くの事業承継でこちらが活用されています。特例承継計画の提出期限はすでに終わっていますが、実際の贈与・相続を行う期限は2027年12月31日です。

「まだ時間がある」と感じるかもしれませんが、株式評価や計画の整備には数ヶ月単位の時間がかかります。後継者の状況や会社の財務状態によっては、今すぐ動き出さないと間に合わないケースもあります。

承継後も続く「維持要件」の管理

もう一つ見落とされがちなのが、承継後も継続して維持しなければならない要件の存在です。

雇用維持要件(承継前の平均雇用者数の80%以上を5年間維持する)もそのひとつです。事業縮小やリストラで従業員数が減ってしまうと、これも猶予取り消しのトリガーになりかねません。現在は要件が緩和されていますが、毎年の届出と管理は引き続き必要です。

「承継が終わったから一安心」ではなく、承継後こそ顧問税理士と定期的に状況を確認する体制を作っておくことが大切です。

株を渡す前に確認しておきたいこと

事業承継を検討している社長に、最低限押さえてほしいポイントを挙げておきます。

  • 後継者は5年以上、安定して代表を務められる見込みがあるか
  • 株を一部売却する可能性のある事情がないか
  • 雇用規模を縮小する計画がないか
  • 毎年の届出管理を担う担当者(税理士含む)が決まっているか

これらを曖昧なまま承継を進めると、数年後に冒頭の社長と同じ状況に陥りかねません。


事業承継税制は使い方次第で非常に強力なツールですが、その分「落とし穴」も深い制度です。2027年末の期限が迫るにつれ、税理士事務所への相談件数も増えています。まだ顧問税理士と承継の話をしていないなら、今期中に一度テーブルに乗せることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。