先日、知り合いの経営者から深刻な相談を受けました。お父様が急逝し、自社株の評価額が2億円近くになっていたのです。問題は、それだけの現金が手元になかったこと。「会社を売るしかないかもしれない」と、青ざめた顔で話してくれました。

自社株の相続は、多くの社長が意外と軽く考えているテーマです。でも現実には、この問題で会社の経営権ごと失うケースが確実に増えています。

業績が良い会社ほど、税額が跳ね上がる

会社のオーナー社長が亡くなると、その方が保有していた自社株は相続財産として課税対象になります。

問題は、その評価額です。業績が好調な会社ほど株の評価は高くなります。年商が数億円規模で利益が出ている会社なら、株の評価額が1億〜数億円になることも珍しくありません。

相続税の最高税率は55%。仮に評価額が3億円なら、相続税だけで1億円を超えることもあります。会社の業績が上がれば上がるほど、相続のリスクも比例して大きくなるという、なんとも皮肉な構造です。

現金がなければ、株を売るしかない

相続税は原則として現金で一括払い、期限は10ヶ月以内です。

遺族がその現金を準備できればよいのですが、会社の資産はあっても個人の現金は少ない、というのがオーナー社長の典型的なパターン。ここで遺族が取れる選択肢は限られます。

最悪のケースでは「自社株を売却して現金を捻出する」しかなくなります。誰が買うかといえば、外部の投資家や同業他社です。創業者が何十年もかけて育てた会社が、相続のタイミングで経営権ごと他人の手に渡る——そういう話が、実際に起きているのです。

「対策すればいい」は本当か?

そう思われた方、正解です。自社株の評価を合法的に引き下げる方法は複数あります。

ただし、ここに大きな落とし穴があります。対策の効果が出るまで、最低でも3〜5年かかるのです。

役員退職金の活用、含み損資産の計上、持株会社スキームの構築……これらはすべて、計画的に時間をかけて実行しなければ効果が出ません。「そろそろ考えないとな」と60代になってから税理士に相談しても、「もう少し早く来てくれれば……」という話になることが、実は少なくないのです。

評価額、今いくらか把握していますか?

ここで一度、立ち止まって考えてみてください。

ご自身の会社の自社株が今いくらで評価されるか、把握していますか?

多くの社長は「なんとなく高いんだろうな」と思いつつ、具体的な数字を確認していません。実際に試算してみると、想定より遥かに高い評価額が出てくることがよくあります。

非上場の中小企業では「類似業種比準価額方式」や「純資産価額方式」が使われることが多く、利益が積み上がるほど評価が上がりやすい仕組みになっています。自覚のないまま評価額が膨らみ続けているケースも珍しくありません。

まず確認したい3つのこと

対策を考える前に、現状把握から始めましょう。

  • 自社株の評価額 — 税理士に依頼すれば試算できます。まず数字を知ることが出発点です
  • 相続発生時の納税資金 — 相続人(家族)が現金でどれだけ用意できるかを確認してください
  • 後継者の有無 — 誰に引き継ぐかが決まっているかどうかで、対策の選択肢が大きく変わります

この3点が整理できれば、具体的な対策の検討に入ることができます。

50代のうちに動くのが鉄則

自社株対策は、早ければ早いほど選択肢が広がります。50代のうちから計画的に動いていれば、評価引き下げの施策を複数打てますし、後継者への株式移転も税負担を抑えながら段階的に進めることができます。

「うちはまだ大丈夫」と思っている間が、実は最もリスクが積み上がっている時間帯です。

まだ自社株の評価額を把握できていないなら、今期中に一度、事業承継に詳しい税理士に相談することを強くおすすめします。会社を守るための準備は、元気なうちにしか動けません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。