先日、創業32年の精密部品メーカーを経営するA社長(63歳)から、こんな一言をいただきました。「うちの会社の株って、相続のときに何か問題になりますか?今まで一度も考えたことがなくて」

この質問、実はかなり危険なサインです。なぜなら、自社株を「放置」したまま相続を迎えた社長が、数千万円規模の税負担に直面するケースが後を絶たないからです。

自社株は「見えない爆弾」になる

上場企業の株式と違い、非上場の自社株には毎日の株価がありません。だから「うちの会社の株なんて、大した価値はないだろう」と思っている社長がとても多い。しかし税務署の評価は、その感覚とはまったく異なります。

非上場株式は「類似業種比準方式」または「純資産価額方式」という方法で評価されます。要は、同業他社の株価や会社の純資産をもとに計算するわけですが、業績が好調で内部留保が厚い会社ほど、評価額は高くなります。長年コツコツ会社を大きくしてきた社長ほど、株価が上がっているという皮肉な構造です。

数字で見るとリアルに怖い

具体的に試算してみましょう。年商5億円・純資産3億円規模の製造業であれば、自社株の評価額が1億5,000万円〜2億円になるケースは決して珍しくありません。

相続税の最高税率は55%。もちろん全額にこの税率が適用されるわけではありませんが、累進課税の計算上、評価額2億円の株式に対して実効税率30%が乗るケースは十分にあり得ます。計算すると6,000万円。対策次第でこの金額が大きく変わります。

「会社の株で相続税を払えばいい」と思うかもしれませんが、それが難しい。非上場株は簡単に売れないので、相続税は基本的に現金で払う必要があります。後継者が会社を継ぐために数千万円の現金を用意しなければならない、という状況は決して絵空事ではないんです。

「最大100%猶予」の制度がある

ただ、手を打てる制度は存在します。「事業承継税制の特例措置」です。

この制度を使うと、後継者が引き継いだ非上場株式にかかる相続税・贈与税を、最大100%猶予することができます。「猶予」とは、一定の要件を満たし続ける限り、最終的に税金の支払いが免除されるということ。うまく活用できれば、数千万円規模の相続税がゼロになり得ます。

ただし、この特例には厳しい期限があります。特例承認計画の提出期限は2027年3月末、制度の適用申請期限は2027年12月末です。「まだ1年半以上ある」と感じるかもしれませんが、実際には後継者の選定・認定機関への申請・都道府県知事の認定取得など、複数のステップを踏む必要があります。動き始めてから申請完了まで、早くても半年以上かかることが多い。今から動かないと、間に合わないケースが出てきます。

対策は株価が低いうちが絶対に有利

事業承継税制を使わない場合でも、自社株対策は株価が低い段階で行うのが鉄則です。

株価を合法的に下げる手法はいくつかあります。たとえば、役員退職金の支給による純資産の圧縮、含み損のある資産の整理、設備投資のタイミング調整などです。こうした対策は、会社の業績が右肩上がりで株価が上がる前に実施するほど効果が出やすい。

「会社が安定してから考えよう」「もう少し規模が大きくなってから」——そう思っているうちに株価は上がり続け、対策コストが膨らんでいきます。節税対策というのは、払う税金が少ないうちにやるから意味があるものです。

まず確認してほしいこと

自社株対策を始める前に、最低限これだけは把握しておきましょう。

  • 株主名簿:誰が何株持っているか(名義が整理されていない会社は意外に多い)
  • 直近3期分の決算書(株価の試算に使います)
  • 後継者候補が決まっているかどうか
  • 特例承認計画をすでに提出済みかどうか

これだけ用意できれば、税理士との初回相談は格段にスムーズになります。「何もわからないまま相談に行くのは恥ずかしい」と思う必要はありません。むしろ何も知らないまま放置するほうが、はるかにリスクが高いんです。

自社株の問題は、知っている人が得をし、知らない人が損をする典型的な領域です。2027年末の期限が迫っている今、まず自社の株価評価額を確認することから始めてみてください。動き出すのに、遅すぎるということはありません。ただし、早いほど選択肢が広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。