「法人保険に加入してから12年になります。そろそろ引退を考えているのですが、保険の解約はいつがベストでしょうか?」
先日、金属加工業を経営する60代の社長からこんな相談を受けました。話を聞いていくと、保険証券を見たのは加入時以来だとおっしゃる。それを聞いて、少し心配になりました。
実は、法人保険を使った退職金積立は、出口を間違えると「積んだはずの退職金が思ったより少ない」どころか、引退の瞬間に多額の税金が降りかかる、ということが起きます。毎月コツコツと保険料を払い続けてきたのに、最後で大きく損をするのは本当にもったいない話です。
今日は、保険で退職金を積んできた社長が引退前によくやってしまいがちな後悔ポイントを、ランキング形式でご紹介します。
第3位:解約タイミングを1年ズラしただけで数百万円が消えた
法人保険には「返戻率のピーク」があります。一般的には加入から10〜15年後に最も高い返戻率になるよう設計されており、そのタイミングを外れると、戻ってくるお金が一気に落ちてしまうことがあります。
たとえば、ピーク時に1,500万円が戻ってくる設計だったとしても、1〜2年ズレて解約すると1,200万円になってしまう、というのは珍しくありません。差額の300万円は、何もしなかっただけで消えてしまったお金です。
「引退は65歳を目安に」と漠然と考えていると、ピーク年齢との間にズレが生じやすくなります。保険証券に記載されている返戻率の推移表を確認して、ピーク年度を手帳にメモしておくだけでも、こうした損失は防げます。
第2位:退職所得控除の計算を甘く見ていた
役員退職金は「退職所得」として課税されます。給与や事業所得に比べて税負担が軽くなる仕組みですが、その恩恵を最大限に受けるには「退職所得控除」をきちんと活用することが欠かせません。
退職所得控除は、役員在任期間によって金額が変わります。20年以下の部分は「40万円×年数」、20年超の部分は「70万円×年数」で計算されます。在任期間が20年ちょうどなら控除額は800万円、30年なら1,500万円になります。
問題は、保険金額がこの控除額を大きく上回ってしまっているケースです。たとえば、在任15年の社長が保険で3,000万円を積み立てても、退職所得控除は600万円にしかなりません。残りの2,400万円は課税対象になり、思わぬ税負担が発生します。
「保険を使えば退職金は節税になる」というイメージが先行して、控除との整合性まで確認していない社長は意外と多いです。保険金額と在任期間のバランスは、加入時に必ずシミュレーションしておくべきポイントです。
第1位:事業承継との出口タイミングがズレて、株価を押し上げてしまった
これが最も見落とされがちで、かつ影響の大きい落とし穴です。
法人が保険に加入している間、解約返戻金は会社の「資産」として貸借対照表に計上されます。保険を解約せずに会社ごと後継者に渡してしまうと、その分だけ会社の評価額(株価)が高くなってしまいます。
後継者が株を取得する際の評価額が上がるということは、贈与税や相続税の負担も増えるということ。節税のために積み立てた保険が、事業承継の段階で「株価を押し上げる要因」になってしまうわけです。
事業承継のスケジュールと保険の解約タイミングは、切り離して考えることができません。どの時点で社長が退職し、どのタイミングで株を移転するか——そのロードマップを固めた上で、保険の出口を設計することが不可欠です。
出口設計は「引退の5年前」から始める
3つの後悔に共通しているのは、「出口を考え始めるのが遅すぎた」という点です。
法人保険は加入時の設計が話題になりがちですが、本当に重要なのは出口です。返戻率のピーク・退職所得控除の計算・事業承継のスケジュール——この3つをセットで考え始める目安は、引退予定の5年前です。
まずは保険証券を引っ張り出して、ピークがいつなのかを確認してみてください。そのうえで、税理士や保険の専門家を交えて出口設計を整えておくのが、後悔しない引退への近道です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。