先日、20年以上会社を経営してきた社長から、こんな相談を受けました。「退職金の計算、自分でやったんですが問題ないですよね?」

話を聞いてみると、功績倍率を4.0倍で設定していたとのこと。私は思わず「今すぐ見直してください」と言わざるを得ませんでした。

役員退職金の計算式、知っていますか?

役員退職金は、次の計算式で算出するのが一般的です。

最終月給 × 勤続年数 × 功績倍率 = 役員退職金

たとえば月給100万円で20年在任した代表取締役なら、基本額は100万円×20年=2,000万円。これに功績倍率をかけた金額が退職金になります。

計算式自体はシンプルです。問題は「功績倍率をいくつに設定するか」。ここを一つ間違えるだけで、何百万円もの追徴課税が待っています。

代表取締役の功績倍率は「3.0倍」が目安

税務上、代表取締役の功績倍率は3.0倍が実務的な目安とされています。これは過去の裁判例や国税庁の通達をもとに形成されてきた基準で、実務の世界では「3.0倍の壁」と呼ばれることもあります。

3.0倍であれば退職金は6,000万円(月給100万円×20年×3.0)。これ自体は問題ありません。しかし4.0倍にすると8,000万円になり、差額の2,000万円が「過大退職金」として損金不算入と認定されるリスクが一気に高まります。

功績倍率3.0超が絶対にNGというわけではありません。ただし超えた場合は「なぜこの数字が適正か」を会社側が立証しなければなりません。実際の税務調査では、この立証に失敗して追徴課税を受けた事例が多く報告されています。

700万円追徴の内訳を整理すると

実際に追徴を受けると、どのくらいの金額になるのか。先ほどの例(月給100万円・在任20年・功績倍率4.0倍)で計算してみましょう。

損金不算入となった2,000万円に法人税率(実効税率約34%)をかけると、法人税の追徴額は約680万円。ここで終わりではありません。

  • 延滞税:納付が遅れた期間に応じて年利約8.7%が加算
  • 過少申告加算税:修正申告なら10〜15%が上乗せ

これらが積み重なると、総負担が700万円を超えることも珍しくありません。退職金を多めに取ろうとした結果、それ以上の税金を払う羽目になる——これが功績倍率ミスの本当の怖さです。

功績倍率以外にも落とし穴がある

役員退職金の設計で見落とされがちなポイントが、他にもいくつかあります。

まず「在任年数の計算」。役員に就任する前の使用人期間をどう扱うかで、計算基礎となる年数が変わることがあります。正確に把握できていない会社が意外と多いです。

次に「最終月給の設定」。退職直前に月給を大幅に引き上げ、その月給を基準に退職金を計算するケースがあります。実態と乖離した月給を使ったと判断されれば、功績倍率と同様に過大認定のリスクが高まります。

そして「議事録・決議の整備」。役員退職金は株主総会または取締役会での決議が必要です。書類が整っていないだけで、全額が損金不算入とされるケースもあります。

退職が「10年後」でも今すぐ設計を

退職金の設計は、退職の数年前——できれば10年前から始めるのが理想です。月給水準・勤続年数・功績倍率のバランスを税理士と一緒に確認し、「過大と言われないラインで最大化する」設計を早めに作る。これが本来あるべき退職金設計の姿です。

退職が近づいてから「いくら取れますか?」と相談しても、調整できる余地はほとんど残っていません。逆に早い段階で動けば、月給設定の見直しや分散支給など、合法的な選択肢が広がります。

まだ退職金設計を税理士と一度も話し合ったことがないなら、今期中に一度相談の場を設けることを強くおすすめします。「まだ先の話」が、実は最も手を打てるタイミングです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。