「うちの会社の株なんて、誰も買わないから大した価値ないでしょう」

こう言っていた社長が、相続税の試算を見て絶句する場面を、私は何度も目にしてきました。非上場の中小企業でも、税務上の自社株評価は想像をはるかに超えた金額になることがあります。そして怖いのは、何もしなくても毎年勝手に上がり続けるという点です。

今回は、知らずにやってしまいがちな「自社株放置の落とし穴」を3つ、具体的にお伝えします。

落とし穴① 利益を出すほど株の評価額が上がる

非上場株式の評価方法のひとつに「純資産方式」があります。簡単に言うと、会社の純資産(資産-負債)をベースに株価を計算する方法です。

業績が良く、毎期利益が積み上がると、それがそのまま純資産に加算されていきます。つまり、黒字経営を続けるほど株の評価額は自動的に上昇するわけです。

年間利益が5,000万円の会社であれば、10年間で5億円の純資産増加。評価額が3倍になるケースも珍しくありません。売れない株なのに、税金だけはしっかり取られる。これが自社株相続の本質的な問題です。

落とし穴② 役員報酬を抑えると株価が上がり続ける

「節税のために役員報酬を低くしている」という社長は多いと思います。法人税を減らせる反面、会社に利益が残るため、純資産が増えていきます。

本人としては節税のつもりでも、その利益が自社株の評価額を押し上げ、将来の相続税を増やしているという側面があるのです。

相続税の最高税率は55%。仮に自社株の評価額が10億円なら、相続税だけで3億円を超える計算になります。現金が手元にあればまだいいですが、株式は簡単に売れるものではありません。納税資金の確保という問題も、同時に起きてきます。

法人税と相続税、どちらを先に減らすかではなく、トータルで最適化する視点が必要です。

落とし穴③ 「来年から考えよう」が最も危険

自社株対策でよく使われるのが、生前贈与や株式の分散です。後継者や家族に少しずつ株を贈与することで、相続時の評価額を下げておく方法があります。

ただし、この対策には時間が必要です。贈与は年間110万円の基礎控除を活用するケースが多いですが、コツコツ積み上げるには10年単位のスパンが求められます。

「株価が高くなる前に贈与しておけばよかった」という後悔は、事業承継の相談でよく聞く言葉です。評価額が上がりきってから動こうとしても、贈与税が高くなりすぎて身動きが取れなくなることもあります。

先送りすればするほど、選択肢が狭まっていく。これが自社株対策の怖いところです。

今すぐ確認してほしいこと

まずは自社株の現在の評価額を把握することから始めてください。税理士に依頼すれば、純資産方式・類似業種比準方式それぞれの評価額を試算してもらえます。

「うちはまだ早い」と思っている社長ほど、気づいたときには評価額が跳ね上がっているものです。社長が60代であれば、10年後の相続を見据えた対策を今から逆算して始めるのがベストです。

決算が終わったタイミングで、一度顧問税理士に「自社株の評価と相続税の試算をお願いしたい」と声をかけてみてください。その一言が、億単位の税負担を変えることになるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。