「うちはまだ渡すには早い。もう少しやり続けます」

先日、そんな言葉を聞かせてくれた社長がいました。年商10億円、創業30年の製造業。業績は右肩上がりで、社長本人もまだまだ元気。気持ちはよくわかります。

ただ、正直に言います。その「まだ早い」という判断が、後継者に億単位の請求書を送りつけることになるかもしれません。

業績が上がるほど、相続税の爆弾は大きくなる

自社株の評価額は、業績が上がるほど高くなります。これ自体は当然のことなのですが、問題はその上昇が相続税の計算に直撃することです。

相続税の最高税率は55%。仮に株価が5年で5倍になったとすれば、その差額に対して最大55%の税金がかかります。試算すると、2〜3億円単位で税負担が膨らむケースも珍しくありません。

つまり、「もう少し頑張ってから渡す」という選択は、後継者の手取りを大きく削る選択でもあるのです。会社の成長が、そのまま相続コストに化けていく。これが事業承継を先延ばしにする最大のリスクです。

「特例があるから大丈夫」という落とし穴

事業承継税制には「特例承継計画」という強力な制度があります。要件を満たせば、相続税・贈与税を最大100%猶予してもらえます。「それを使えばいい」と思う方も多いでしょう。

ただし、この特例には大きな落とし穴があります。申請から認定まで、最低でも3〜5年かかるのです。さらに認定後も一定の要件を満たし続ける必要があり、簡単に「やっぱりやめた」とはいきません。

「引退を決めてから申請しよう」では、間に合わないのです。逆算すると、対策のタイムリミットは**「引退5年前」**。それより後になると、この制度を十分に活用するのが難しくなります。

自社株の「今の価値」を知っていますか?

意外と多いのが、自分の会社の株価をきちんと把握していない社長です。上場企業と違い、非上場株式には市場価格がありません。税務上の評価方法(類似業種比準方式や純資産価額方式など)で計算する必要があり、感覚的な数字とは大きくズレることがあります。

「だいたい1億円くらいかな」と思っていたら、実際には3億円だった。そういうケースは決して珍しくありません。まず最初にやるべきことは、現時点での自社株の評価額を専門家に計算してもらうことです。そこから初めて、どの対策が必要か・どれだけ時間が必要かが見えてきます。

「元気なうちに」が最強の節税策

事業承継の文脈で「元気なうちに」という言葉をよく使います。体力的・精神的に余裕があるうちに準備を始めることで、選択肢が大きく広がるという意味です。

贈与を活用した株式の段階的な移転、自社株買いによる株価の引き下げ、持株会の活用など、使える手段は複数あります。ただし、いずれも実行に時間がかかるものばかりです。焦って動いても使えない制度が出てきます。

「余裕があるうちに準備を始める」——これが、億単位の節税につながる最大のポイントです。

まだ事業承継の準備に着手していない社長には、まず「自社株の現在価値の確認」から始めることをおすすめします。意外な数字に気づくことが、動き出すきっかけになるはずです。先延ばしにできる時間は、思っているより短いかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。