先日、ある社長からこんな連絡が届きました。「父が突然亡くなって、相続税の請求額を見て目を疑いました」。
年商10億を超える製造業の2代目でした。お父様が30年かけて育てた会社です。それなのに相続税の請求額は4億円を超えていた。10ヶ月という納付期限までにそれだけの現金を用意できず、最終的に株式の一部を外部に売却して経営権を手放すことになったと言っていました。
こういう話、決して珍しくありません。むしろ会社が大きく育っていればいるほど、起きやすいのです。
相続で会社を失う社長には、共通したパターンがあります。今日はその代表的な3つをお伝えします。
3位:自社株の価値を「社長の感覚」で見積もっていた
「うちの株なんて、たいした価値ないよ」——経営者と話していると、こういう言葉をよく聞きます。でも、それはあくまで感覚の話であって、税務上の評価とはまったく別の話です。
非上場の中小企業の株式には、「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」という独自の計算方式があります。業績が好調な会社ほど株価が高く評価され、年商5億・利益5,000万程度の会社でも、株の評価額が2〜3億円に達することは珍しくありません。「大した会社じゃない」と思っていても、税務上は立派な高額資産なのです。
怖いのは、この評価額を把握しないまま何十年も経営を続けているケースです。早めに評価方式を確認しておけば、会社の資産構成を見直したり、持株会を設立したり、計画的に生前贈与を行ったりして、相続税の負担を数千万円単位で圧縮できることもあります。
「知らなかった」では済まないのが税務の世界です。経営の数字には敏感な社長でも、自社株の評価額を把握していない方は意外に多いのです。
2位:会社にお金はあるのに、個人の財布が空だった
相続税の申告・納付の期限は、亡くなった翌日から10ヶ月以内と法律で定められています。この期限に延長はありません。
よくある落とし穴が、「会社の口座には潤沢に資金があるのに、社長個人の口座には現金がほとんどない」というパターンです。法人の資産と個人の資産は完全に別物ですから、会社の銀行口座にあるお金を相続税の支払いに充てることはできません。
結果として、自社株を物納したり、第三者に株を売却して現金を作ったりするしかなくなります。「会社は残したのに、経営権だけ失った」という事態が、こうして生まれます。
対策として有効なのは、個人の現金や生命保険を計画的に積み上げておくことです。生命保険には「500万円×法定相続人の数」まで相続税が非課税になる特例があり、納税資金の確保として非常に使い勝手が良い方法です。ただし、これも準備には数年単位の時間が必要です。
1位:「いつかやろう」と思ったまま、突然亡くなった
これが最も多く、最も深刻なパターンです。
「相続対策の話をしましょう」と持ちかけると、「まだ元気だから大丈夫」「うちはもう少し先でいい」という反応が返ってくることがよくあります。気持ちはわかります。でも、50代・60代で急に倒れる経営者も現実にいます。病気も事故も、予告なく来るものです。
そして今、ぜひ知っておいてほしい制度があります。2027年12月31日まで申請できる「事業承継税制の特例」です。要件を満たせば、後継者が引き継ぐ自社株の相続税・贈与税を最大100%猶予してもらえます。うまく活用すれば、数億円規模の税負担がゼロになる可能性があります。
ただし、この制度を使うには「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があり、準備から適用まで最低でも3年はかかります。「使いたい」と思ってから動き始めても間に合わないケースが多く、しかも制度の期限は2027年末です。今から動いても、実質的に残り時間は多くありません。
対策には、後継者の選定・育成、株価の引き下げ、遺言書の作成、保険の見直しなど、さまざまな準備が絡み合います。「専門家に相談してから考えよう」ではなく、「相談することが第一歩」と思ってください。
相続は、社長が亡くなったあとに起きることです。本人が「まだいい」と思っている間は、何も進みません。でも、何も準備しないまま突然のことが起きたとき、残された家族や後継者が会社ごと路頭に迷う可能性があります。
まずは自社株の評価額を把握することから始めてください。顧問税理士に「うちの株、今いくらになりますか?」と聞くだけでいい。その一問が、会社を守る第一歩になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。