先日、製造業を営む社長から急ぎの電話がありました。「父が突然倒れまして。うちの会社の株って、どうなるんですかね…」と。
年商8億円、創業30年。先代が一代で築き上げた会社です。でも相続対策は何もしていなかった。電話口の声に焦りと不安がにじんでいました。
こういったケースは決して珍しくありません。日々の経営に追われる社長ほど、自分の相続を「まだ先の話」と後回しにしがちです。でも、準備がないまま相続を迎えたとき、遺族はどんな現実に直面するのか。今日はそのリアルをお伝えします。
第3位:自社株が丸ごと相続税の対象になる
非上場の中小企業の株式は、相続税の計算において「評価額が億を超える」ことが珍しくありません。
上場株のように市場で売れるわけでもないのに、税法上の評価額だけが膨らむ。売上が大きく、利益率が高い会社ほどこの傾向は顕著です。
問題は、現金で払えるかどうかです。評価額3億円の株式を相続したとして、その分の現金が手元になければどうするか。株を売って納税資金を作るしかない。でも非上場株式をすぐに買ってくれる相手がいるでしょうか。後継者にも資金がなく、銀行も融資しない、となれば詰みです。
第2位:株式が遺族に分散し、経営権が揺らぐ
相続対策なしで経営者が亡くなると、自社株は法定相続分に従って配偶者や子供たちに分かれます。子供が3人いれば、それぞれが3分の1ずつ株主になる。
これが経営に深刻なダメージをもたらします。
兄弟間で意見が割れれば、株主総会で重要な意思決定が前に進まない。設備投資も役員の選任も止まる。そうなると取引先は不安を感じ、メインバンクの融資姿勢も変わってきます。信用は、一度崩れると取り戻すのが難しい。
「うちは仲のいい家族だから大丈夫」と思っている社長ほど、お金が絡んだ瞬間に関係が一変するケースを、私は何度も見てきました。
第1位:廃業
これが最悪のシナリオです。そして、決して他人事ではありません。
事業承継の準備が何もないまま相続を迎えるリスクを抱えた企業は、3社に1社にのぼるとも言われています。納税資金が作れない、後継者が決まっていない、株式が分散して経営が機能しない——複数の問題が重なれば、会社を続けることが物理的に難しくなります。
30年かけて作り上げた会社が、相続から1〜2年で消えていく。経営者本人だけでなく、従業員とその家族、取引先にまで影響が及びます。それが「対策ゼロ」の行き着く先です。
2027年12月末という期限を知っておいてほしい
一つ、大事な情報をお伝えします。
事業承継税制の特例措置というものがあります。要件を満たせば、後継者が取得した自社株に係る相続税・贈与税を全額猶予・免除できる制度です。ただし、この特例を受けるためには「特例承継計画」を都道府県に提出済みであることが条件で、その適用期限は2027年12月末となっています。
計画さえ提出済みであれば、本番の贈与や相続は期限後でも適用できます。つまり「今から動けばまだ間に合う」ケースもある。動いていない方は、時間がなくなってきています。
「いつかやろう」は通用しない
相続は、経営者の体調次第でいつ訪れるかわかりません。準備のないまま迎えれば、遺族に選択肢はほぼ残りません。
まず確認してほしいのは、自社株の評価額がどのくらいになるのか、そして事業承継税制の特例に今から間に合うのかどうかです。これは顧問税理士か、事業承継に詳しい専門家に聞けばすぐにわかります。
「相続の話をするのはなんとなく縁起が悪い」という感覚はよくわかります。でも、対策を先延ばしにするほど選択肢が減り、遺族の負担が増えます。専門家への相談は、縁起が悪いのではなく、家族と会社を守るための経営判断です。
今期中に、一度だけでも、事業承継の専門家に話を聞いてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。