先日、ある製造業の社長からこんな連絡が入りました。

「親父から会社を引き継いで3年。やっと落ち着いてきたと思ったら、税務署から調査の通知が来た」——。

事業承継は、相続税の申告が終わればゴールではありません。むしろその後が本番で、税務署は承継後の会社を数年にわたって注視しています。今回は、実際の調査で否認されやすい3つのパターンをお伝えします。

第3位:名義株を「昔からそうだったから」で放置する

先代が在任中、従業員や親族の名義を借りて株式を保有させていたケースは、中小企業では珍しくありません。「昔からそうなっていたから」と実態を確認しないまま承継してしまうと、税務調査で痛い目に遭います。

調査官が見るのは「実質的な支配者は誰か」という一点です。配当を受け取っていない、株主総会に出席していない、名義を貸した経緯が説明できない——こういった事実が積み重なると、「先代が実質的に保有していた株」と認定され、相続財産に計上されます。

「知らなかった」では済まされないのが名義株の怖いところです。承継前に専門家と一緒に株主名簿を精査し、名義と実態のズレがないかを必ず確認しておきましょう。

第2位:退職金の功績倍率を「高ければ高いほどいい」と設定する

先代への退職金は節税の定番手法ですが、倍率を上げれば上げるほど調査リスクが高まります。

退職金の計算式は一般的に「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」です。このうち功績倍率が不相当に高いと判断されると、損金算入を否認されます。さらに、仮装や隠蔽の意図があると認定された場合には、重加算税35%が上乗せされます。これは通常の過少申告加算税10〜15%と比べて、大きな差です。

よく「功績倍率3倍が上限」と言われますが、これは法律で定められた上限ではありません。過去の裁判例などから「3倍超は否認リスクが高い」とされているだけであり、業種や会社規模によっては3倍以下でも問題になることがあります。

退職金を支給する際は、同業他社の水準や先代の具体的な貢献を文書化した「功績倍率の根拠メモ」を作っておくことが、いざというときの守りになります。

第1位:自社株評価で会社規模の判定を誤る

これが最も多い否認パターンです。

非上場株式の相続税評価には、大会社・中会社・小会社という区分があり、規模によって類似業種比準価額と純資産価額を使える割合が異なります。一般的に類似業種比準価額のほうが低く評価されることが多く、「できるだけ大きい区分で申告したい」という動機が生まれます。

しかし規模の判定は、従業員数・総資産・売上高など複数の指標を組み合わせて行うものです。「うちは中会社のはずだ」と思い込んで申告したら、実際は小会社の要件を満たしていたというケースが後を絶ちません。調査官はまずここをチェックします。

規模判定を誤ると、評価額の計算からやり直しになり、修正申告と延滞税のダブルパンチを食らいます。申告前に税理士と一緒に判定基準表を確認するひと手間を、決して省かないでください。

承継が終わってからこそ、税の専門家を手放さない

名義株の実態確認、退職金の根拠書類の整備、自社株評価の会社規模判定——この3つは、承継前後にプロと一緒に必ずチェックすべき項目です。

「承継が一段落したから税理士との付き合いを薄くしよう」と考える社長は少なくありませんが、実はその後3〜5年が最も調査リスクの高い時期です。承継後こそ、税理士との関係を密に保っておくことを強くお勧めします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。