先日、売上5億円規模の製造業を営む社長から、こんな相談を受けました。

「そろそろ息子に会社を譲ろうと思って、自社株の評価額を試算してもらったんだけど……とんでもない金額が出てきて」

試算の結果は、自社株の評価額が2億円超え。このまま何も手を打たずに承継すれば、相続税の負担は数千万円規模になる可能性があると言うのです。

「自分で一から育てた会社なのに、株を渡すだけでこんなに税金がかかるのか」と、社長はしばらく言葉を失っていました。


会社の「お荷物資産」が、実は節税の切り札になる

自社株の評価額は、会社の純資産や利益をもとに計算されます。つまり、純資産が大きければ大きいほど、株価も高くなる仕組みです。

そこで着目したいのが、「帳簿上の価値と実態がかけ離れた資産」、いわゆる含み損のある資産です。

具体的には、購入当時は1,000万円の価値があった機械や設備が、今では市場価格で300万円にしかならないケース。帳簿にはまだ800万円と記載されていても、実際の価値は半分以下だったりします。こういった資産は、多くの中小企業のバランスシートに静かに眠っています。

この「含み損」を評価損として会計上に反映させることで、純資産を圧縮できます。純資産が下がれば、自社株の評価額も下がる。これが今回ご紹介する手法の骨格です。


実際にどれくらい株価が下がったのか

冒頭の田中社長(仮名)のケースでは、社内に複数の含み損資産が眠っていることがわかりました。古い製造設備、稼働率が低下した車両、帳簿価格と時価がかい離した土地の一部……。

それらを専門家と一緒に精査し、適切なタイミングで評価損として処理した結果、純資産が大幅に圧縮されました。

最終的に自社株の評価額は、当初の試算から約30%引き下げに成功。承継時の相続税負担が大きく軽減される見込みとなりました。

2億円の評価額が1億4,000万円になるだけで、相続税の計算はまるで変わります。社長は「こんな手があったのか」と、安堵した表情を見せてくれました。


この手法が「一石二鳥」と言われる理由

含み損資産の評価損処理は、単なる株価対策にとどまりません。

実態と帳簿がかけ離れた資産をそのままにしておくと、財務諸表の信頼性が下がり、金融機関との交渉や後継者への経営引き継ぎにも影響が出ることがあります。評価損を処理することは、バランスシートの健全化にも直結するのです。

株価を下げながら、同時に財務体質を整える。事業承継を前にした経営者にとって、これほど効率的な対策はなかなかありません。


ただし、やり方を間違えると逆効果になることも

ここで必ず押さえておきたい注意点があります。

評価損の処理は、タイミングと方法が非常に重要です。決算期との兼ね合い、税務上の要件を満たしているかどうか、他の財務指標への影響……これらを無視して見切り発車すると、意図せず課税リスクを高めてしまうケースもあります。

また、含み損があるからといって、すべての資産を一度に処理すればいいわけでもありません。どの資産をいつ処理するかは、会社の利益状況や今後のキャッシュフローとのバランスを見ながら判断する必要があります。

自己判断で動くのではなく、事業承継に詳しい税理士と一緒に設計することが大前提です。


「まだ時間がある」と思っているうちに動くのが正解

事業承継の準備は、「そろそろ考えようかな」と思ったときが、実はギリギリのタイミングだったりします。株価の引き下げ対策は、承継の直前に慌てて動いても効果が出にくく、計画的に数年かけて実施するのが基本です。

もし今の自社株の評価額を把握していないなら、まずは試算だけでもしてみてください。数字を見て初めて「対策が必要だ」と気づく社長は、本当に多いのです。

含み損資産が社内に眠っていないか、この機会にぜひ一度、専門家と一緒に棚卸しをしてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。