先日、年商8億円の卸売業を営む社長から、こんな相談を受けました。

「顧問税理士に頼んで自社株の相続税評価を試算してもらったら、想定の3倍近い金額になっていて……来年の承継が正直怖くなってきました」

自社株の評価額が高いまま事業承継を迎えると、贈与税や相続税が億単位で変わることがあります。しかも困ったことに、評価を下げる手法を深く知らない税理士も多く、何も対策しないまま期日を迎えてしまうケースが後を絶ちません。

株価が高いと、具体的にどれくらい損をするのか

非上場企業の株式を後継者に渡す場合、その評価額に応じて贈与税または相続税がかかります。

たとえば評価額が3億円の株を贈与する場合、税率は最大55%に達します。仮に合法的な手続きで評価額を1.5億円に圧縮できれば、税負担は数千万円単位で変わります。この差は、社長が長年かけて積み上げてきた内部留保に匹敵する金額になることもあります。

「税理士が対策を提案してくれるはず」と思っている社長も多いのですが、日常の記帳・申告業務と事業承継の最適化は、実は異なる専門領域です。担当税理士が優秀でも、この分野に詳しくなければ積極的には動いてくれません。

評価を下げる3つのアプローチ

非上場企業の株式は「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」を組み合わせて評価されます。この仕組みを理解すると、どこに手を打てばよいかが見えてきます。

ステップ1:類似業種比準価額の3要素を計画的に引き下げる

類似業種比準方式では、配当金額・利益金額・純資産価額という3つの数値をもとに株価を算出します。この3要素を適正な範囲で引き下げることが、評価額圧縮の王道です。

代表的な手法は、役員退職金の支払いによる利益の圧縮や、剰余金の整理です。いずれも事業上の合理的な理由を持たせることが重要で、「節税だけが目的」と判断されると税務上の問題になるリスクがあります。専門家と一緒に進めるべき領域です。

ステップ2:特定評価会社の要件に引っかからないよう資産を整える

土地や株式を大量に保有していると「特定評価会社」に分類され、株価評価が大幅に引き上げられます。不動産や有価証券の比率を一定以下に抑えるよう、承継前に資産構成を見直しておく必要があります。

これは財務の健全化にもつながるため、承継対策と経営改善を同時に進められる施策でもあります。

ステップ3:承継の2〜3年前から着手する

最も重要なのは、タイミングです。評価額の引き下げ効果が財務諸表に反映されるまでには、1〜2期分の決算期間が必要です。承継1年前に慌てて動き始めても、手遅れになるケースが多くあります。

「まだ早いかな」と感じた今が、着手のベストタイミングです。

「知らない税理士のほうが多い」は本当か

少し辛口な話をします。

事業承継に詳しい専門家でなければ、これらの対策を体系的に提案してくれることはほとんどありません。顧問税理士との信頼関係は大切にしつつ、事業承継を専門とするセカンドオピニオンに一度相談してみることをおすすめします。

今の税理士との関係を壊す必要はまったくありません。専門家に相談した内容を共有し、連携して進めるのがベストです。むしろ「こういう観点も確認したい」と伝えることで、既存の顧問関係がより充実することも多くあります。

まず今週できること

顧問税理士に「今の自社株の評価額を試算してもらえますか?」と聞いてみてください。それだけでいいです。

試算結果が想定より高かった場合、残された時間は思ったより短いかもしれません。承継を3年後に考えているなら、今期の決算で動き始めることが現実的なラインです。

まだ株価対策に着手していないなら、今期中に事業承継の専門家に相談する一歩を踏み出してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。