先日、創業30年の製造業を営む社長からこんな相談を受けました。
「息子に会社を継がせたいんだけど、自社株の評価額が3億円を超えていて…相続税がいくらになるか考えると夜も眠れなくて」
このお悩み、実は多くのオーナー社長が直面している問題です。でも同時に、設計次第で相続税を大幅に圧縮できる可能性がある、というのもまた事実なんです。
今回は、その切り札のひとつである「種類株式」の話をしようと思います。
株は「1種類」じゃなくていい
多くの社長は、株というものを「1種類のもの」として捉えています。でも実は、会社法上、株式にはさまざまな「種類」を設けることができます。
代表的なのが、議決権のある株式と**議決権のない株式(無議決権株)**の2種類に分ける方法です。
議決権というのは、株主総会での発言権・決定権のこと。「誰を社長にするか」「会社の重要方針をどうするか」を決める力です。つまり、経営の実権そのものと言ってもいいでしょう。
これを「後継者には議決権あり株を渡し、他の相続人には議決権なし株を渡す」という形で分けることができるんです。
なぜ相続税が減るのか
ここがポイントです。
無議決権株は、議決権という「会社を支配する力」がない分、税務上の評価額が最大10%減額される場合があります。
株価評価3億円の会社であれば、無議決権株に区分された部分については最大3,000万円分の評価が下がる計算になります。相続税率が50%前後のゾーンにある資産家であれば、それだけで1,500万円前後の税負担の差が生まれることもあるんです。
「たかが10%」と思うかもしれません。でも、自社株の評価額が数億円規模になってくると、その10%は想像以上に大きな金額になります。多くの社長がこの設計を知らないまま、何千万円もの税金を余分に払っているのが現実です。
具体的にどう設計するか
たとえば、株価評価が3億円の会社で、後継者である長男と、経営に関与しない次男・長女に資産を分けたいというケースを考えてみましょう。
このとき、普通株(議決権あり)を長男に集中させ、次男と長女には無議決権株を持たせます。こうすることで——
- 長男は少数株でも経営権をしっかり握れる
- 次男・長女は財産を受け取れる(遺留分問題の緩和にもなる)
- 無議決権株の評価減で、全体の相続税負担が下がる
という三方よしの構造が作れます。
後継者が「経営の実権」を持ちながら、他の相続人にも財産を公平に分けられる。これが種類株式の最大の魅力です。
ただし、設計を誤ると逆効果になる
ここで少し注意の話もさせてください。
種類株式は、設計を間違えると深刻なトラブルの種になります。
たとえば、無議決権株を持つ株主が「自分は議決権がないのに、なぜ経営に口を出せないんだ」と不満を抱えるケースは少なくありません。家族間の感情的なもつれが、後から株主間紛争に発展することもあります。
また税務上も、設計の仕方によっては「みなし贈与」と認定されるリスクがあります。評価額の計算方法や、株式移転のタイミングによっては、むしろ余計な課税を招く可能性もゼロではありません。
種類株式は「知っているだけで得をする」ツールではなく、「正しく設計してはじめて機能する」ツールです。税理士だけでなく、会社法の専門家である弁護士も交えて、事前に丁寧に設計することが欠かせません。
「まだ先の話」と思っていませんか
事業承継の相談をしていると、「自分はまだ60代だから」「後継者はまだ若い」と言う社長によく出会います。
でも種類株式の設計は、株価が低いうちに動く方が圧倒的に有利です。会社の業績が上がれば上がるほど、自社株の評価額は膨らみます。手を打つタイミングが遅れれば遅れるほど、節税の余地は狭まっていきます。
「自社株の評価がどのくらいか、最近確認していない」という社長こそ、まず現状把握から始めてみてください。評価額を知るだけで、危機感と選択肢の両方が明確になります。
種類株式という選択肢があることを知った今日が、事業承継設計を動かす最初の一歩になれば嬉しいです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。