先日、資産数億円を持つ製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「税理士に『そのうち相続の対策をしましょう』と言われ続けて、もう5年が経ちました。具体的に何をすればいいのか、正直よくわからないんです」
このパターン、非常に多いです。「そのうち」と思っているうちに、対策できる時間がどんどん削られていきます。相続税は、準備した人と何もしなかった人とで、数千万円単位の差が出ることも珍しくありません。
今回は、社長が知っておくべき生前対策を5つ、具体的な数字とともてお伝えします。
生命保険の非課税枠を使い切っているか
意外に知られていないのが、生命保険金には相続税の非課税枠があるという事実です。計算式はシンプルで、「500万円 × 法定相続人の数」が非課税になります。
相続人が配偶者・子ども2人の計3人なら、1,500万円がまるごと課税対象から外れます。現金をそのまま残すのと、生命保険に変換して残すのとでは、同じ金額でも課税の扱いが大きく変わるわけです。
すでに法人で生命保険を活用している方も多いと思いますが、「個人名義での相続対策保険」は別の話です。両方を組み合わせることで、より大きな効果が生まれます。
暦年贈与は「早く始めた人が勝つ」
年間110万円までの贈与は非課税。これは広く知られているルールです。ただし、2024年以降は注意が必要になりました。
改正により、亡くなる前7年以内に行った贈与は、相続財産に加算されるようになっています(以前は3年以内でした)。つまり、「亡くなる直前に慌てて贈与する」という戦術は、もはや通用しないのです。
裏を返せば、早く始めれば始めるほど有利。子どもや孫への贈与を今すぐ始めることで、時間を味方につけることができます。年110万円でも、10年続ければ1人あたり1,100万円です。相続人が複数いれば、その効果は倍増します。
相続時精算課税制度の2024年改正を見逃すな
相続時精算課税制度は、2,500万円を超えた分に20%の税がかかる代わりに、大きな資産を一度に贈与できる制度です。以前は「どうせ相続時に精算されるなら意味がない」と敬遠されがちでした。
ところが2024年の改正で、この制度に年110万円の基礎控除が新設されました。この110万円分は、将来の相続時にも加算されません。暦年贈与と組み合わせて戦略的に使うことで、選択肢の幅が広がっています。
どちらが有利かはケースバイケースですが、選択肢が増えたことは間違いありません。
自宅・事業用地は「小規模宅地等の特例」で評価が激変する
不動産を持っている社長に、ぜひ押さえておいてほしい特例があります。「小規模宅地等の特例」です。
要件を満たせば、自宅の土地は最大80%の評価減が受けられます。1億円の土地が、相続税の計算上は2,000万円として扱われる、ということです。税額に換算すれば、数百万〜数千万円の差になります。
ただし、この特例は「誰が相続するか」「相続後にどう使うか」によって適用要件が変わります。事前に相続人と話し合っておかないと、特例が使えなかったというケースも起こります。不動産を持っているなら、今すぐ確認を始めてください。
自社株の相続税を実質ゼロにできる「事業承継税制」
中小企業の社長にとって最大の難関の一つが、自社株の相続です。会社の業績が良ければ良いほど、株価も上がり、相続税の負担が重くなります。
事業承継税制を使えば、後継者が自社株を相続・贈与により取得した際の相続税・贈与税が、最大100%猶予されます。要件を満たし続ければ、実質的に税負担がゼロになるケースもあります。
要件の維持や手続きは複雑で、専門家のサポートが不可欠です。ただ、この制度の存在を知らずに何もしないのと、活用するのとでは、後継者への負担が天と地ほど違います。
5つの対策に共通しているのは、「時間をかけるほど効果が大きい」という点です。
生命保険の加入は健康状態によって制限されますし、暦年贈与は始めてから7年以上経たないとフル効果が出ません。小規模宅地の特例は相続人との事前調整が必要で、事業承継税制は申請手続きに時間がかかります。
「まだ早い」と思っているなら、それが一番危険なサインです。まずは顧問税理士に「相続対策の現状チェック」を依頼することから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。