先日、創業20年のある製造業の社長からこんな相談を受けました。
「10年以上、毎年110万円ずつ子どもに贈与してきたんですが、最近税理士に『それ、見直した方がいいかもしれない』と言われて……」
その社長、顔が少し青ざめていました。長年コツコツ積み上げてきた対策が、実は裏目に出ているかもしれないと知ったからです。
2024年、暦年贈与のルールが静かに変わった
暦年贈与とは、年間110万円までの贈与が非課税になる制度です。「年間110万円以内に収めれば贈与税はかからない」というのは、多くの社長が知っている基本ルールですよね。
ところが、2024年から見逃せない改正が入りました。それが「相続前の持ち戻し期間の延長」です。
これまでは、亡くなる前3年以内の贈与が相続財産に加算されるルールでした。それが2024年以降の贈与分から、7年以内に延長されたんです。
つまり、どれだけ毎年コツコツと贈与していても、亡くなる前7年間分の贈与はすべて相続財産に「引き戻されて」相続税の計算に含まれてしまう。長年贈与を続けてきた社長ほど、この改正の影響を受けやすいと言えます。
自社株を持つ社長には「相続時精算課税」が刺さる
ここで、もう一つの選択肢として注目したいのが相続時精算課税です。
こちらは累計2,500万円まで贈与税がかからない制度で、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に使えます。一度この制度を選択すると、同じ贈与者との関係では暦年贈与には戻れないため、選択には慎重さが必要です。
ただ、自社株の評価額が高い、あるいは今後上がる見込みがある社長にとっては、相続時精算課税が圧倒的に有利なケースがあります。
理由はシンプルです。たとえば今、自社株の評価額が3,000万円だったとします。これを暦年贈与で少しずつ移転しようとすると、何十年もかかります。その間に株価が上がれば、移転コストはどんどん膨らむ。
一方、相続時精算課税なら、株価が低いタイミングで一気に後継者へ移転できます。将来株価が上昇しても、贈与時の評価額で課税が固定されるため、節税効果が出やすいんです。
「暦年が正解」という思い込みが一番危ない
相続税対策の相談を受けていると、「暦年贈与をずっとやっているから大丈夫」と思い込んでいる社長が多いと感じます。
でも、どちらの制度が有利かは、次の要素によってガラリと変わります。
- 財産の総額:相続財産が基礎控除内に収まるなら、そもそも対策の優先度が変わる
- 自社株の現在の評価額と将来見通し:株価が低いうちに移転するほど効果が高い
- 後継者との関係・人数:誰に、いつ、どれだけ渡すかで最適解が異なる
- 相続発生までの想定期間:7年ルールを考えると、残り時間も重要な変数になる
この4つを整理せずに「とりあえず毎年110万円」を続けているなら、一度立ち止まって考えてみてください。
シミュレーションなしで動くのは、目隠しして運転するようなもの
暦年贈与と相続時精算課税、それぞれの有利・不利は数字を入れてシミュレーションしないと絶対にわかりません。
感覚や噂で選んでいる社長が多いですが、財産総額が1億円の人と10億円の人では、まったく違う答えが出ます。自社株が1億円の社長と、預金だけの社長でも話が変わります。
「税理士に任せているから安心」という方も、顧問税理士が相続・事業承継に詳しいかどうかは別の話です。得意分野のある税理士にセカンドオピニオンを求める価値は十分あります。
まだ対策が曖昧なら、今期中に動いてください
相続対策は、始める時期が早いほど選択肢が広がります。7年ルールを逆算すれば、50代から動き出した社長と60代後半から始めた社長では、使える手がまったく違う。
「まだ先の話」と思っているうちに、使えるはずだった制度の期間が削られていきます。自社株を抱えている社長なら特に、株価評価が低いうちに動けるかどうかで、億単位の差が出ることもあります。
暦年贈与を続けている社長も、相続時精算課税が気になっている社長も、まずは専門家に現状の財産状況を伝えてシミュレーションを依頼することから始めてみてください。それが、9割の社長が見落としている「正しい選び方」への第一歩です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。