先日、資産が10億を超える製造業の経営者から、こんな一言をもらいました。「贈与、まだ本格的に始めてないんですよね。来年あたり腰を据えて考えようかと」——。年齢は68歳。思わずヒヤリとしました。

相続税は、財産がある社長ほど「もっと早く動けばよかった」という後悔が出やすい税金です。なぜなら、生前贈与の効果は何年・何十年という時間の積み重ねで初めて生きてくるから。今回は、実際に社長たちが「やっておいてよかった」と語る手法を、効果の高い順にご紹介します。

第3位:相続時精算課税の「新110万円枠」を使い倒す

2024年の税制改正で、相続時精算課税制度に毎年110万円の基礎控除が新設されました。これ、まだ知らない社長が意外と多いんです。

改正前の相続時精算課税は「2,500万円まで贈与税が非課税になる代わりに、その財産は相続時に加算される」という仕組みで、「結局は先送りにすぎない」と敬遠されがちでした。ところが改正後は、年間110万円以内であれば贈与税もゼロ、相続財産への加算もゼロ。毎年110万円を渡し続けるだけで、着実に財産を圧縮できるようになりました。

一度この制度を選ぶと暦年贈与には戻れない点は覚えておく必要があります。どちらが有利かは家族構成や資産規模によって変わるので、顧問税理士と相談しながら使い分けを検討してみてください。

第2位:教育資金一括贈与——2026年3月末で幕を閉じた「非課税の大技」

孫を持つ社長に特に人気だったのが、教育資金の一括贈与です。祖父母から孫一人あたり最大1,500万円まで、教育目的の資金であれば贈与税がかからない制度で、一度に大きな金額を非課税で移せるため、相続財産の圧縮効果は絶大でした。

ただし、この制度は2026年3月31日をもって新規申し込みが終了しています。早めに動いた社長には大きな恩恵があった一方で、「そのうちやろう」と先送りにしていた社長には、惜しい話になりました。

制度が終わった今こそ、気づいてほしいことがあります。節税対策の多くには「使える期間」があります。「知ったときには期限切れ」というのは珍しいことではなく、それが相続税における数百万円の差を生む原因になっています。今後も同種の時限措置が登場したとき、いち早く動けるかどうかが勝負です。

第1位:暦年贈与——「10年以上前から始めていた社長」との差は数百万円

最も効果が高い手法は、派手さのかけらもありません。年間110万円以内の暦年贈与を、とにかく早く始めること。それだけです。

2024年の改正で「相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される」というルールが強化されました。これはつまり、亡くなる直前7年間の贈与は節税として機能しなくなる可能性があるということです。逆にいえば、10年・15年前から贈与を続けてきた社長は、その分の財産をまるごと相続財産から切り離せています。

年110万円 × 10年 = 1,100万円。子ども2人に渡し続ければ2,200万円。これだけで相続税は数百万円変わります。「大した金額じゃない」と感じるかもしれませんが、早く始めた社長と遅れた社長の間には、時間が生む複利のような差があります。

「今日始めるか、明日に先送りするか」だけの話

生前贈与はシンプルな節税手法ですが、効果を最大化するには時間が必要です。制度の枠をフル活用しようとすれば、10年・20年単位で積み上げる必要があります。

「まだ60代だから」「来年から本腰を入れる」——そう言っていた社長が、数年後に「あのとき始めておけばよかった」と悔やむ場面を何度も見てきました。もし今、生前贈与をまだ始めていないなら、まずは顧問税理士に「今から何をしておくべきか」と聞いてみてください。動き出すのに、早すぎることはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。