先日、製造業を営む62歳の社長からこんな相談を受けました。

「息子に会社を譲ろうと思って税理士に試算してもらったら、相続税だけで1億円超えると言われて……正直、頭が真っ白になりました」

自社株の相続税。これは、長年かけて会社を育ててきた社長ほど、ある日突然、想像を超える数字として目の前に現れるものです。


「会社が成長するほど、自社株の評価は上がる」という残酷な事実

自社株の相続税評価額は、大きく2つの指標をもとに計算されます。ひとつは会社の純資産(資産から負債を引いた金額)、もうひとつは直近の利益です。

つまり、社長が必死に利益を出し、内部留保を積み上げてきたその結果が、評価額を押し上げる要因になってしまうわけです。業績の良い会社ほど、承継コストが重くなるという、なんとも皮肉な構造です。

冒頭の田中社長(仮名)の場合、自社株の評価額は約3億円。相続税の試算は1億円をゆうに超えていました。息子さんに株を渡したくても、受け取る側にそれだけの現金があるはずもない。事業承継が「絵に描いた餅」になりかけていました。


打った手は2つ。シンプルだけど、効果は絶大

専門家と一緒に動いた結果、田中社長が実行したのは主に2つの対策です。

① 役員報酬の見直しで、利益を適正に圧縮する

評価額の計算に使われる「利益」は、直近数年の平均値が基準になります。役員報酬が市場水準より低く抑えられていた場合、適正な水準に引き上げることで、課税対象となる利益を合法的に下げることができます。

もちろん、過度に引き上げれば法人税や所得税の問題が出てきます。あくまで「適正な報酬設計」の範囲内で行うことが前提です。

② 持株会社を活用して、評価構造そのものを変える

もうひとつが、持株会社(ホールディングス)の設立です。簡単に言うと、事業会社の株を直接持つのではなく、「株を管理するための別会社」を間に挟む仕組みです。

この構造を使うと、評価額の計算方式が変わり、結果として株の評価が下がるケースがあります。田中社長の場合、この2つを組み合わせることで、評価額を約3億円から1.5億円前後まで圧縮することに成功しました。

相続税の負担は、それだけで数千万円単位で変わります。


「利益が出ている今」こそ、動くタイミング

よく誤解されるのですが、自社株対策は「相続が近づいてから考えるもの」ではありません。むしろ逆で、会社の業績が良く、評価額が高い時期に早めに手を打つほど効果が大きいのです。

理由はシンプルです。評価額が高いうちに対策を始めれば、その後の評価額の上昇分が圧縮された状態でキープされるからです。手を打たずに放置すると、毎年積み上がる利益と純資産がそのまま評価額に反映され続けます。

「うちはまだ大丈夫」と思っている社長ほど、数年後に想定外の数字を突きつけられることが多いです。


こんな社長は今すぐ現状確認を

以下に当てはまる方は、一度自社株の評価額を試算してもらうことをお勧めします。

  • 設立10年以上で、内部留保が厚くなってきた
  • 役員報酬を長年据え置きにしている
  • 承継先(子どもや役員)が決まっていて、5〜10年以内に譲る想定がある
  • 株価対策を「いつかやらなければ」と思いつつ、手をつけていない

対策の手段は持株会社だけではありません。生命保険の活用、株式の段階的な贈与、従業員持株会の設立など、会社の状況によって有効な手が変わります。

大切なのは、「何が使えるか」を早い段階でプロと一緒に整理しておくことです。


田中社長はこう言っていました。「もっと早く相談していれば、もう少し選択肢があったかもしれない」と。

まだ自社株の評価額を把握していないなら、まずは今期中に試算だけでもしておくことを強くお勧めします。数字を知るだけで、打てる手の幅がまったく変わってきますよ。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。