先日、ある製造業の社長からこんな連絡が来ました。「先生、うちの株の評価額を計算してもらったら、想像の3倍の金額が出てきました。これ、全部相続税にかかるんですか?」
事業承継を考え始めて初めて自社株の評価額を計算し、その高さに青ざめる社長は後を絶ちません。年商10億の会社なら、株の評価額が5億・10億になることも珍しくない。それを知らずに何もしないまま相続が発生すると、後継者が莫大な税負担を抱えることになります。
ただ、手を打てる余地は十分あります。今日は、合法的に自社株の評価額を大幅に圧縮できる3つの方法をお伝えします。
まず「株価がどう決まるか」を知っておく
非上場会社の株式は、主に「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」という方法で評価されます。類似業種比準方式は、配当・利益・純資産の3要素を業界平均と比較して計算する仕組みです。
これを逆から読むと、この3要素を下げることで評価額も下がる、ということになります。これが今回ご紹介する3つの対策すべての根拠になっています。
第3位:配当ゼロ+役員報酬増で「利益」を圧縮する
まず取り組みやすいのが、配当と利益の操作です。
配当をゼロにして、役員報酬を増やして利益を圧縮するだけで、類似業種比準方式の評価額が3〜5割下がるケースがあります。実際に年商5億・利益3000万の会社で、2000万を役員報酬に振り替えたところ、株価評価が4割以上下がった事例もあります。
「会社の資金が減ってしまう」と心配される方がいますが、役員報酬はそのまま社長個人の手取りになります。お金の行き先が会社から個人に変わるだけで、グループ全体の資産は変わりません。
注意点は、役員報酬の変更は原則として事業年度開始から3ヶ月以内しかできないこと。タイミングを逃すと翌期まで待つことになりますので、決算が近い社長は今すぐ検討してください。
第2位:役員退職金で「純資産」を直接減らす
次に、純資産そのものを減らす方法です。
承継の前に、代表者(親世代)に役員退職金を支払うと、その金額がそのまま会社の純資産から減ります。純資産が減れば株価評価も下がる。シンプルですが、効果は大きい対策です。
退職金の適正額は「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」で計算します。功績倍率は2〜3倍の範囲が税務調査で否認されにくい目安とされています。月額報酬100万円・勤続30年・功績倍率3倍なら、9000万円が目安の上限。これだけ純資産を圧縮できれば、株価への影響は相当なものになります。
ただし、「名義だけの退職」はアウトです。退職金を受け取った後も実質的に経営を続けていると、税務調査で否認されるリスクがあります。本当に代表を退くタイミングと合わせて設計することが不可欠です。
第1位:持株会社化で「含み益の37%」を丸ごと控除する
3つの中でもっともインパクトが大きいのが、持株会社スキームです。
持株会社に株式を移転すると、純資産価額方式での評価時に「含み益の37%」を控除できるというルールがあります。これは将来かかるはずの法人税相当額を前倒しで差し引く考え方です。
含み益が3億円あった場合、37%の控除で約1億1000万円が評価額から差し引かれます。単純計算で、1億円超の圧縮が一手で実現できる。これが「1位」の理由です。
持株会社の設立と維持にはコストがかかりますし、設計にも時間がかかります。ただ、事業承継を5〜10年スパンで計画的に進めるなら、早い段階で持株会社を作っておくことで累積の節税効果は非常に大きくなります。
3つを組み合わせれば、2〜3億円の圧縮も現実的
今回ご紹介した3つの対策は、それぞれ単独でも使えますし、重ねることもできます。
- 配当ゼロ+役員報酬増で評価額を3〜5割圧縮
- 退職金で純資産を数千万〜1億円規模で減少
- 持株会社化でさらに含み益の37%を控除
この3手を組み合わせれば、2〜3億円規模の圧縮も非現実的な話ではありません。「自社株はどうにもならない」と思っていた社長ほど、実は対策の余地が大きいことが多いです。
ただし、どの手法も「実態が伴っているか」が税務調査の焦点になります。節税効果だけを目的に見せかけの取引をすると、後で全額否認されるリスクがあります。必ず事業承継に詳しい税理士と一緒に、自社の状況に合わせた設計をしてください。
まだ自社株の評価額を計算したことがない社長は、まず現状把握から動いてみてください。数字が見えてから、対策も具体的になっていきます。「知らなかった」では済まないのが、事業承継の世界です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。