先日、年商3億円の印刷会社を経営する60代の社長から、こんな相談を受けました。
「息子2人に平等に株を渡したつもりが、今では兄弟がほとんど口もきかない状態で…」
会社は黒字。後継者も育っている。それなのに、株式の設計を一つ間違えただけで、家族関係が壊れてしまったのです。事業承継は「誰に継がせるか」だけを考えがちですが、実は「株をどう渡すか」の設計が、その後の会社と家族の命運を左右します。
今回は、現場でよく見かける株式設計のミスを3つご紹介します。心当たりがある方は、ぜひ早めに手を打ってください。
「平等」が争いの火種になる均等分割
複数のお子さんがいる場合、株を均等に分けるのが「公平な親心」のように感じられます。しかし、これが最もよくある落とし穴の一つです。
たとえば、兄が60%・弟が40%なら兄に経営権が集中しますが、兄弟で50%ずつ持つと、会社の重要事項を決める際に必ず「もう一方の同意」が必要になります。経営方針で意見が割れた瞬間、会社は完全にフリーズしてしまいます。
実際、設備投資の判断が半年以上止まり、取引先との関係が悪化したケースも見てきました。感情的な対立に発展すれば、経営どころか家族関係そのものが壊れていきます。
基本的な考え方として、後継者となる1人に議決権の過半数——できれば3分の2以上——を集中させることが重要です。他の兄弟には無議決権株式や財産を別の形で渡すなど、「経営権」と「財産権」を切り分ける設計が有効です。
株価を知らずに贈与して、数千万円の税金が発生
次によくあるのが、自社株の評価額をきちんと把握しないまま、生前贈与を進めてしまうケースです。
「うちは中小企業だから、株なんて大した金額じゃないだろう」と思っている社長が多いのですが、実態はかなり違います。業績が好調で内部留保が積み上がっている会社は、税務上の株価が驚くほど高く評価されることがあります。
1株10万円を超えている状態でまとまった株数を贈与すると、贈与税が数千万円に達するケースも珍しくありません。「良かれと思って早めに渡した」のに、子供側に巨額の納税義務が生じてしまうのです。
対策としては、事前に税理士へ依頼して株価の試算を行い、必要であれば役員報酬の調整や含み損資産の整理などで株価を引き下げてから贈与するのが定石です。また、暦年贈与や相続時精算課税など、贈与の方法によっても税負担は大きく変わります。まず現状の株価を「数字で把握する」ことが、すべての出発点になります。
最大のリスクは「何もしないまま相続が始まること」
そして、現場で最も深刻な結果を招くのが、対策を先送りにしたまま相続が発生してしまうケースです。
社長が突然亡くなると、遺言書がない限り、株式は法定相続の割合に従って自動的に分散します。配偶者、子供たち、場合によっては兄弟姉妹まで、経営に関与したことのない親族が株主として名前を連ねることになります。
平時はそれほど問題にならないように見えても、いざ会社の売却・合併・廃業といった重大な意思決定が必要になったとき、分散した株主全員の同意を取り付けなければなりません。連絡が取れない親族、感情的に反対する親族、一部の株主だけが高額な買取を要求してくる——そういった事態が実際に起きています。
「対策は早いほど選択肢が広がる」というのは本当で、元気なうちに動けば、遺言・生前贈与・持株会社の活用など多様な手段を組み合わせることができます。しかし相続が発生してしまった後では、できることが一気に狭まります。
今すぐ確認してほしい3つのこと
難しく考える前に、まず以下の3点を確認するだけでも十分な出発点になります。
- 自社株の現在の評価額を税理士に試算してもらったことがあるか
- 後継者を1人に絞り、その人に議決権が集中する設計になっているか
- 万が一のときに備えた遺言書または株主間契約が存在するか
一つでも「ノー」があれば、今期中に専門家へ相談することを強くおすすめします。事業承継の準備は、早く始めるほど選択肢が増え、コストも下がります。家族への最大のプレゼントは、会社そのものではなく「揉めない設計」かもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。