先日、60代の製造業の社長からこんな相談を受けました。「そろそろ息子に会社を譲りたいんだけど、自社株の評価額が高すぎて身動きが取れないんだよね」と。
業績が好調なのは喜ばしいことですが、株価が上がれば上がるほど、後継者への株式移転にかかるコストも膨らみます。贈与税や相続税の負担が重くなり、「承継したくてもできない」という状況に陥るオーナー社長は、実はとても多いんです。
そこで今回は、知る人ぞ知る株価対策として「従業員持株会」の活用法をご紹介します。うまく設計できれば、自社株の評価額を合法的に10〜30%引き下げることも十分に狙えます。
従業員持株会とは、どんな仕組みか
従業員持株会とは、社員が毎月少額ずつ積み立て、自社株を共同で保有する制度です。上場企業では一般的ですが、中小企業でも導入できる仕組みで、社員の資産形成や会社への帰属意識を高める効果があります。
ただ、事業承継の文脈でこの制度が注目されるのは、別の理由からです。それが「少数株主割引」という評価ルールです。
株価が7000万円になる「少数株主割引」の正体
相続税や贈与税の計算において、非上場株式の評価額は株主の立場によって変わります。会社を支配できる株主(原則として議決権の50%超を持つ大株主)は「原則的評価方式」で高く評価され、それ以外の少数株主は「配当還元方式」という、かなり低い評価額が適用されます。
従業員持株会が保有する株式は、会社の支配権に関係のない少数株に分類されます。つまり、従業員持株会に自社株を一定数渡すことで、その株式分については評価額を大幅に圧縮できるんです。
具体的に数字で見てみましょう。原則的評価方式で1億円と評価される株式が、配当還元方式では7000万円程度になるケースは珍しくありません。3000万円の評価額の差は、贈与税や相続税に換算すると数百万円以上の節税効果になり得ます。
しかも、後継者への株式移転コストが下がるということは、それだけ多くの株式を早い段階で移転しやすくなるということ。承継をスムーズに進めるための「下地作り」として非常に有効な手段です。
設計を間違えると逆効果になる理由
ここで注意していただきたいのは、従業員持株会は「作れば終わり」という制度ではないということです。
たとえば、持株会の規約が不十分だったり、持株会への株式移転の方法が適切でなかったりすると、税務上の評価が意図した通りにならないことがあります。また、持株会が一定以上の株式を保有すると支配関係の判定に影響する可能性もあり、設計のバランスが重要です。
さらに、社員にとっても自社株を持つことにはリスクがあります。会社の業績が悪化すれば、保有株式の価値が下がるわけですから、制度の説明や同意取得も丁寧に行う必要があります。
持株会の設立には、規約の整備、奨励金の設定、株式の拠出方法など、決めるべき事項が数多くあります。「節税になるから」と焦って動くより、専門家と一緒にじっくり設計することが成功の鍵です。
事業承継は「早く始めた人」が有利
事業承継対策に共通して言えることですが、効果が出るまでに時間がかかる施策ほど、早く始めるほど有利になります。従業員持株会も同じで、設立してから株価評価に影響が出るまでには一定の期間が必要です。
「まだ引退は先の話」と思っているオーナー社長ほど、今の株価と相続税評価をチェックしてみることをおすすめします。業績好調なうちに手を打てるかどうか、それが承継コストを数百万〜数千万円単位で左右することがあります。
自社株の評価額がいくらになっているか、正確に把握できていますか?まだ確認していないなら、まずはそこからスタートしてみてください。そして従業員持株会の活用に興味があれば、事業承継に詳しい税理士や弁護士に相談することを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。