先日、製造業を営む62歳の社長からこんな相談を受けました。
「税理士に相続税の試算をしてもらったら、1億8000万円と言われて。会社をたたむしかないのかと思って……」
資産5億円のうち、3億円が自社株。現金がほとんどない状態で相続が起きれば、税金を払うために会社を売るしかない。決して他人事ではない話です。
ただ、早期に対策を打てば話は変わります。この社長が5つの対策を実践した結果、相続税の見込み額を約6000万円圧縮することができました。今日はその具体的な中身をお伝えします。
毎年110万円を贈与する「暦年贈与」の地道な力
地味に見えて、長く続けると大きな効果を発揮するのが暦年贈与です。年間110万円までは贈与税がかからないため、後継者のお子さんや配偶者へ毎年コツコツと資産を移せます。
10年続ければ1100万円、20年で2200万円。税負担ゼロで財産を次世代へ移せる計算です。
ただし、2024年以降の税制改正により、相続前7年以内の贈与は相続財産に加算されるルールに変わっています。「亡くなる直前にまとめて贈与すればいい」という発想では手遅れになるので、若いうちから始めるのが鉄則です。
自社株の「評価額」を下げる設計が肝
自社株は、会社の業績や資産内容をもとに評価額が算出されます。つまり、評価の下がりやすい状態を意図的に作ることができるのです。
役員退職金の支給や、含み損のある資産の整理、借入金の活用など、合法的に評価を引き下げる方法は複数あります。自社の決算内容をもとに「着地点」を設計することで、贈与や相続の際にかかる税金を大幅に抑えられます。
これは一朝一夕でできるものではなく、数年かけて計画的に進めるもの。「そのうちやろう」と思っているうちに、株価が上がり続けてしまうのが一番もったいないパターンです。
生命保険の「非課税枠」を使い切っているか
意外と知られていないのが、生命保険金の非課税枠です。死亡保険金は「500万円 × 法定相続人の数」まで相続税がかかりません。
法定相続人が3人いれば、1500万円が非課税。これを活用しない手はありません。しかも、現預金を保険に換えることで「相続財産の圧縮」と「納税資金の確保」を同時に達成できます。
保険の種類や契約形態によって効果が変わるため、節税目的で加入するなら必ず専門家と一緒に設計することをおすすめします。
土地の評価を80%減にできる小規模宅地等の特例
会社の敷地や自宅の土地を相続する場合、要件を満たせば評価額を最大80%減にできる強力な特例です。
たとえば、路線価で評価した土地が1億円だとしても、この特例が使えれば2000万円として計算できます。差額8000万円に対して相続税がかからなくなるわけで、その節税効果は絶大です。
適用には「誰が・どんな土地を・どう使っているか」という要件があり、相続の直前に慌てて動いても間に合わないケースがあります。生前から要件を満たすように体制を整えておくのが重要です。
事業承継税制で自社株の納税を猶予・免除する
5つの対策の中でも、インパクトが最大なのがこれです。一定の要件を満たして後継者に自社株を贈与・相続した場合、その株式にかかる贈与税・相続税の納税が猶予され、最終的には免除されます。
猶予される税額は、場合によっては数千万円〜数億円規模。会社を守るための制度として、事業承継を考えるすべての社長に知っておいてほしい内容です。
ただし、申請手続きが複雑で、要件を外れると猶予が取り消されるリスクもあります。認定支援機関の関与が必要なケースもあり、「使えるかどうか」の判断は専門家と一緒に確認するのが前提です。
対策は「今日の判断」が10年後を決める
冒頭の社長は、62歳で対策をスタートしました。遅すぎることはありませんでしたが、「あと5年早ければ、もっと減らせた」とおっしゃっていました。
相続税対策は、時間が武器です。暦年贈与も、株価の引き下げも、事業承継税制の準備も、すべて「今すぐ動いた人」が有利になります。
「まだ元気だから」「会社が軌道に乗ってから」と先延ばしにするほど、選択肢は狭まっていきます。自社株の評価額が気になる社長は、まず顧問税理士に現状の試算を依頼するところから始めてみてください。今の数字を知るだけで、動き出せることは必ずあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。