先日、愛知県の製造業を営む会社から、こんな相談を受けました。「社長が突然亡くなって、会社から家族にお金を渡したいんですが、どうすれば一番損をしませんか?」
実は、この「渡し方」を知っているかどうかで、手元に残る金額が数百万円単位で変わってきます。何も知らずに支払ってしまうと、使えるはずの非課税枠を丸ごと捨てることになるんです。
相続税がかからない「死亡退職金」の非課税枠
会社から役員の遺族へ支払われる死亡退職金には、相続税法上の非課税枠があります。その計算式はシンプルで、「500万円 × 法定相続人の数」。
法定相続人が3人いれば、1,500万円まで相続税がかかりません。これは生命保険の非課税枠と同じ計算式なので、ピンとくる方もいるかもしれませんね。
ただし、ここで多くの会社が見落とすポイントがあります。この非課税枠を活かすには、退職金規程(役員退職慰労金規程)が事前に整備されていることが前提になります。規程がなければ、支払いの根拠が曖昧になり、金額の妥当性も問われます。「亡くなってから慌てて決めた」では、税務上のリスクが跳ね上がるんです。
「弔慰金」には、さらに別の非課税枠がある
死亡退職金とは別に、「弔慰金」という名目でも遺族にお金を渡せます。そしてこの弔慰金には、退職金とはまた別の非課税枠が設けられています。
業務外の死亡(病気や私的な事故など)の場合、月額給与の6か月分までは所得税も相続税もかかりません。月給が100万円なら、600万円を丸ごと非課税で渡せる計算になります。
ちなみに業務上の死亡(労災など)であれば、この枠は3年分まで広がります。いずれにせよ、給与水準が高い役員ほど、弔慰金の非課税メリットは大きくなります。
田中社長のケース|合計2,100万円を非課税で
冒頭の愛知県の製造業、田中社長のケースに話を戻しましょう。
田中社長には奥様とお子さん2人、合計3人の法定相続人がいました。月額給与は100万円。業務外の死亡でした。
この条件を整理すると、こうなります。
- 死亡退職金の非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円
- 弔慰金の非課税枠:100万円 × 6か月 = 600万円
- 合計非課税額:2,100万円
会社から遺族へ2,100万円を渡しても、相続税も所得税もかかりません。これだけの金額が非課税になるのは、やはり大きいですよね。
そして重要なのは、田中社長の会社が事前に退職金規程と弔慰金規程の両方を整備していたという点です。規程があったからこそ、スムーズに・合法的に・最大限の非課税枠を活用できたわけです。
「準備なし」だと何が起きるか
規程を整備していなかった場合、何が起きるか想像してみてください。
まず、退職金の金額設定に根拠がないため、税務調査で「過大退職金」として一部が否認されるリスクがあります。また、弔慰金と退職金の区分が曖昧になると、弔慰金の非課税枠が使えなくなることもあります。
さらに厄介なのは、社長が亡くなってから慌てて規程を作っても、「遡及適用」と見なされる可能性があること。税務署はそういった不自然な書類の時系列を、きちんとチェックしてきます。
非課税枠を活かせず、2,100万円に対して相続税がかかってしまったとすると、税率によっては数百万円の差が生じます。知っているか知らないかだけで、これだけの損失が出るんです。
今すぐ確認してほしいこと
難しい話は抜きにして、まず確認してほしいことは3つだけです。
- 役員退職慰労金規程が会社に存在しているか
- 弔慰金規程(または就業規則の中の規定)が整備されているか
- 法定相続人が何人いるか(非課税枠の計算に直結します)
この3つを確認するだけで、いざというときに家族が受け取れる金額が大きく変わります。
「まだ規程を作っていない」という社長は、今期中に顧問税理士や社会保険労務士と相談して整備しておくことを強くおすすめします。万が一のときに慌てても、取り返しのつかない損をすることがあるんです。
社長が元気なうちにできる準備が、家族を守る最大の節税対策です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。