先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。

「自分が育てた会社の株が3億円を超えているらしい。息子に引き継がせたいんだけど、相続税でどのくらい持っていかれるんだろう」

自社株の価値が高くなればなるほど、経営者として誇らしい反面、相続のことを考えると頭が重くなります。実際、自社株3億円に対する相続税は、条件によっては1億円を優に超えてくることもあります。

ただ、この社長の場合はある制度を活用することで、相続税の実質負担を9割近く圧縮できることがわかりました。

税務署は自分から教えてくれない

その制度の名前は「事業承継税制(特例措置)」です。

後継者に自社株を引き継ぐ際の相続税・贈与税を、一定の要件を満たしている間は最大100%猶予してくれる仕組みです。「猶予」なので厳密には免除ではありませんが、要件を維持し続ければ最終的に納税が免除されるケースも多くあります。

なぜ税務署が積極的に案内しないかというと、申請しなければ適用されない制度だからです。知っている人だけが使える——それが事業承継税制の現実です。

自社株比率が高いほど、効果は劇的になる

この制度が特に効くのは、「総資産のほとんどが自社株」という社長です。

たとえば総資産4億円のうち3億円が自社株という場合、事業承継税制を使えば相続税の課税対象から自社株3億円分が猶予されます。残り1億円分にだけ課税される計算になるので、単純比較で税負担は75%以上減ります。

冒頭の社長のケースでは、自社株が総資産の85%超を占めていました。事業承継税制を活用した結果、相続税の実質負担が通常の1割以下になったのです。「こんな制度があるなら、もっと早く知りたかった」——それが正直な感想でしたが、それでも気づいたタイミングで動けたことが幸いでした。

「2027年12月末」という期限を忘れてはいけない

この特例措置には、明確な期限があります。

後継者が適用を受けるためには、2027年12月末までに贈与または相続が実行されている必要があります。「まだ数年ある」と感じるかもしれませんが、準備には相応の時間がかかります。

さらに重要な点があります。特例措置の前提となる「特例承継計画」の提出期限は、2026年3月末で既に終了しています。この計画書を未提出のまま迎えた方は、特例措置の適用を受けることができません。

「知らなかった」では取り返しがつかない話です。自分が提出済みかどうかをまだ確認していないなら、今すぐ顧問税理士に確認することをおすすめします。

猶予を維持するための継続要件

事業承継税制は適用を受けたら終わり、ではありません。その後も要件を守り続ける必要があります。

主なものを挙げると、後継者が代表者として経営を継続していること、雇用の80%以上を5年間維持すること、会社が非上場であることなどです。

これらの要件を満たせなくなった場合、猶予されていた税金に利子税を加えた額を一括で納付しなければなりません。「税金がゼロになった」と安心していると、後から大きな負担が生じることになります。制度の活用と同時に、継続要件の管理も専門家と連携しながら進めることが大切です。

まず「自社株がいくらか」を知ることから

自社株の評価額が高くなっている社長にとって、事業承継税制は数千万円単位の差を生む可能性がある制度です。

特例承継計画の提出が間に合った方は、2027年12月末の実行期限に向けて今すぐ動き出すことが重要です。まだ何もしていないという方は、まず自社株の評価額がいくらになっているかを確認することが第一歩になります。

「うちには関係ない」と思っている社長ほど、実は一番影響を受ける側だったりします。自社株の比率が高ければ高いほど、この制度の恩恵は大きくなるからです。一度、現状を税理士に相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。