先日、ある社長からこんな話を聞きました。

「引退する先輩社長が、退職金2億円を受け取って不動産を買ったんだよ。最初は『なんで現金で持たないんだろう』と思ってたけど、10年後に話を聞いたら全然違う世界にいた」と。

その先輩社長と自分で、いったい何が違ったのか。それが今日お話ししたいことです。

「退職金を現金で受け取る」が実は一番コスト高

多くの社長が退職金の設計をこう考えます。「退職所得控除をフル活用して、手取りを最大化する。あとは株か預金で運用しよう」。

この発想、間違ってはいません。退職所得控除は勤続年数に応じて大きな控除が取れます。たとえば勤続30年なら最大1,500万円の控除。それ以上の部分も2分の1課税という優遇があります。

ただ、問題はその「受け取った後」です。

現金で持てば、毎年の運用益には所得税・住民税がかかります。株の配当や売却益で約20%。預金利息も同様です。そして亡くなったとき、現金はそのまま「額面=相続財産」として相続税の計算対象になります。

税引き後に残ったお金が、また相続税で削られる。この構造が続く限り、世代をまたぐたびに資産は目減りしていきます。

不動産を組み合わせると何が変わるか

一方、退職金で収益不動産を購入した社長はどうなるか。

まず、建物部分の減価償却費が毎年の必要経費として計上できます。たとえば2億円の物件で建物比率が60%なら、1億2,000万円が償却対象。木造なら22年、RC造なら47年で按分しますが、中古物件なら耐用年数が短縮されるため、償却スピードが上がります。

結果、家賃収入が年間1,000万円あっても、減価償却費との相殺で課税所得がほぼゼロ、というケースが珍しくありません。毎年の所得税・住民税をほぼ払わずに、手元にキャッシュが積み上がっていく状態が作れるわけです。

相続のときの「評価圧縮」という武器

さらに大きな差が出るのが、相続です。

現金2億円は相続税評価額も2億円。ところが不動産の場合、**土地は路線価評価(時価の7〜8割程度)、建物は固定資産税評価額(時価の5〜6割程度)**で計算されます。さらに賃貸物件なら「貸家建付地」「貸家」の評価減が乗り、時価の40〜60%程度まで評価が下がるケースもあります。

2億円の現金が、不動産に変えるだけで相続税上は8,000〜9,000万円の評価になる、ということも起こりえます。この差に相続税率(最高55%)がかかってくると、数千万円単位の差になります。

3つの効果が10〜20年で積み上がる

整理するとこうなります。

  1. 退職所得控除の最大活用:受け取り時の課税を最小化する
  2. 毎年の減価償却節税:不動産保有中の所得税・住民税をほぼゼロにする
  3. 相続税の評価圧縮:次世代に渡すときの税コストを大幅に下げる

この3つを10〜20年積み上げると、何もしなかった場合との差額が1億円を超えるケースが出てきます。「1億円差が出る」というのは誇張ではなく、長期で見たときの現実的な数字感です。

ただし、設計を間違えると逆効果になることも

ひとつ注意点があります。退職金の受け取り方と不動産の購入タイミングは、慎重に設計する必要があります。

退職金を法人から支払う際は「不相当に高額」と判断されないよう、役員報酬や在任年数に基づいた算定根拠が必要です。また、購入する不動産が節税目的のみで収益性のない物件では、金融機関の評価も落ち、後々の出口戦略に詰まります。

「節税になると聞いて買ったけど、売れなくて困っている」という話は決して少なくありません。あくまで収益性のある物件を適正価格で取得することが前提です。

今、退職金の設計をしていますか?

退職金の設計は、引退の直前に慌てて考えるものではありません。10年、20年前から積み上げるものです。役員報酬の水準、退職金規程の整備、不動産の購入タイミング——これらは時間をかけてこそ効果が出ます。

もしまだ退職金規程を作っていない、あるいは「受け取ったら現金で持つ」しか考えていないなら、一度税理士に「不動産との組み合わせ」を相談してみてください。思っていた以上に選択肢が広がるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。