先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「今年は業績がよかったから、夏に役員賞与を500万円出そうと思っているんだけど、手元にどのくらい残るんだろう?」と。

その問いに正直に答えると、社長の表情が少し曇りました。500万円の役員賞与、実は手元に残るのは350万円前後、場合によってはそれ以下になるんです。

賞与500万円に、3割以上の税金と保険料がのしかかる

役員賞与には3つの負担が同時にかかります。所得税、住民税、そして社会保険料です。

ある程度の所得がある社長なら、所得税と住民税の合算実効税率は40〜50%近くに達することも珍しくありません。さらに健康保険と厚生年金の社会保険料が加わると、手取り率は60〜65%程度になるケースもあります。

つまり「今年は500万円を賞与で出そう」と思っても、社長の財布に入るのは300〜350万円前後。残りの150〜200万円は、税金と保険料として消えてしまう計算です。

しかも、ここに見落とされがちな落とし穴があります。通常の役員賞与は、法人の損金(経費)に算入できません。会社が500万円を支払っても、法人税の計算上はなかったことにされてしまうのです。社長の手取りも減り、法人税の節税にもならない——二重にダメージを受ける構造になっています。

「事前確定届出給与」で損金算入できる仕組みがある

ここで活用したいのが、「事前確定届出給与」という制度です。

名前は難しそうですが、仕組みはシンプルです。「いつ、いくら賞与を払うか」を税務署にあらかじめ届け出ておくことで、その賞与を法人の損金として認めてもらえます。

損金算入できるということは、法人税の課税所得が圧縮されるということ。仮に法人税率が30%なら、500万円の賞与を損金算入することで150万円分の節税効果が生まれます。会社にとっても社長にとっても、メリットがある設計です。

ただし「1円でも違えたら全額アウト」になる

事前確定届出給与は強力なツールですが、使い方を誤ると大変なことになります。

届け出た「金額」と「支払日」は、絶対に変えられません。1円でも多く払っても少なく払っても、あるいは1日でも遅れても、届け出た金額の全額が損金不算入になってしまいます。

「業績が良かったから少し上乗せしよう」「今月は資金繰りが苦しいから来月に延ばそう」——これらは全部アウトです。届出書を出した瞬間から、その内容は「絶対に変えられない約束」になると理解してください。

業績の見通しが立てにくい時期や、月々のキャッシュフローに波がある会社では、特に慎重な設計が求められます。税理士と十分に相談した上で届け出ることが、失敗しない絶対条件です。

手取りをさらに増やすなら、退職金との組み合わせが鍵

事前確定届出給与で賞与を損金算入できても、社長側の所得税・住民税・社会保険料の負担はそのままです。そこをさらに圧縮したいなら、役員退職金の活用が強力な選択肢になります。

役員退職金には「退職所得控除」という大きな非課税枠があり、在任年数に応じて控除額が増えます。20年以下なら1年あたり40万円、20年超は70万円の控除です。さらに退職所得は控除後の金額の2分の1だけが課税対象になるため、実効税率が劇的に下がります。

毎年の賞与として受け取り続けるより、退職金として受け取る設計に組み替えることで、生涯の手取り総額は大きく変わります。「賞与設計と退職金の組み合わせ」と言われる理由が、ここにあります。

夏の賞与前に、今すぐ設計を見直しておくべき理由

事前確定届出給与には届け出の期限があります。株主総会や定時取締役会から1ヶ月以内、または事業年度開始から4ヶ月以内など、タイミングを逃すと翌期まで使えません。

「今期の利益が見えてきた」と気づいた段階で、早めに税理士に相談するのが鉄則です。賞与の金額設定、退職金との配分バランス、届け出のタイミング——この三つを組み合わせることで、社長の手取りは想像以上に変わります。

まだ何も届け出ていないなら、今すぐ税理士に連絡するのが最善の一手です。夏の賞与シーズンを、何も考えずにやり過ごすのは、あまりにももったいないことです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。