先日、年商3億円の建設会社を経営するある社長から、こんな相談を受けました。

「決算前に1,000万円ほど余剰資金が出そうなんだけど、何に使えば一番得なの?」

この質問、本当によく受けます。でも「何でもいい」とは正直に言えません。選択肢によっては、5年後・10年後に数百万円単位の差がついてしまうからです。

今日は、よく候補に挙がる3つの方法を正直に比較してみます。どれが「正解」かは会社の状況によりますが、選ぶ前に知っておくべき事実があります。

第3位:銀行預金(とりあえず置いておく)

最も安全に見えて、節税の観点では最も効果が薄い選択肢です。

現在の法人向け普通預金の金利は、年0.2%以下が一般的です。1,000万円を1年預けても利息は2万円にも届かない。しかもこの利息は法人の益金に算入されるので、税引き後の手取りはさらに少なくなります。

問題は「機会損失」という静かな出血です。法人税率が30〜35%の会社で余剰資金が眠り続けるということは、節税できたはずの税額が毎年そのまま国に渡っていくということ。1,000万円の余剰資金に対して何もしなければ、単純計算で300万円超の節税機会を毎年見逃し続けることになります。

預金は「手元流動性の確保」として必要な部分はあります。ただし「節税の手段」としては機能しないことを、まず押さえておいてください。

第2位:節税保険(経営者保険)

かつては節税の代名詞でしたが、2019年以降は別物と考えた方がいいです。

2019年の国税庁通達改正前は、解約返戻率が85〜90%を超える保険商品で、保険料の全額または半額を損金算入できるものが多数ありました。「払った保険料が経費になって、後で高い返戻率で戻ってくる」という設計です。

改正後は、この仕組みが大幅に制限されました。解約返戻率のピーク時期や金額に応じた細かいルールが設けられ、かつてのような「全額損金+高返戻率」の組み合わせは実質封じられています。

さらに注意が必要なのが「出口課税」の問題です。解約返戻金は法人の益金として計上されます。退職金などの大きな損金で相殺する出口戦略が事前に設計されていなければ、解約した年に想定外の税負担が発生することがあります。「節税のつもりが、課税の先送りだった」という落とし穴にはまる会社が少なくありません。

保険は「保障」の観点から必要なケースはもちろんあります。ただ純粋な節税目的で選ぶなら、改正前と同じ感覚で期待しないことが重要です。

第1位:退職金スキーム(中退共・役員退職金積立)

現時点で節税効果という観点から最も優秀な選択肢がこれです。

仕組みはシンプルで、毎年の積立金を損金算入(経費化)しながら、将来の退職時に退職所得として受け取ります。

退職所得の税計算が強力です。受け取った退職金から「退職所得控除」を差し引き、さらに2分の1にした金額だけが課税対象になります。退職所得控除は勤続年数が長いほど大きくなり、20年超なら1年につき70万円が加算されます。

具体的に数字で見てみましょう。勤続30年で退職金3,000万円を受け取った場合、退職所得控除は800万円+70万円×10年=1,500万円。課税対象は(3,000万円-1,500万円)÷2=750万円になります。実効税率に換算すると10〜15%台になることも珍しくありません。法人側で毎年経費計上しながら、個人の手元に届く税率は非常に低い水準に抑えられる、という二重のメリットが働いています。

ただし注意点があります。中小企業退職金共済(中退共)の場合、積み立てた掛金は原則として途中で取り戻せません。また役員退職金を会社から支払う場合は、「不相当に高額」とみなされると損金不算入のリスクがあります。功績倍率や在任年数に基づいた適切な設計が前提になるので、設計段階から税理士と一緒に進めることをおすすめします。

選ぶ前に「出口」まで考える

3つを整理するとこうなります。

方法毎年の節税受取時の課税資金の柔軟性
銀行預金なし利息のみ課税高い
節税保険限定的解約返戻金に課税中程度
退職金スキーム大きい退職所得控除で大幅軽減低い

「今の税負担を減らしたい」という視点だけでなく、「将来どう受け取るか」まで含めて設計することが節税の本質です。出口を考えずに選ぶと、課税を先送りしているだけのケースが意外と多い。

余剰資金の使い方で悩んでいるなら、まず退職金スキームを検討の入口に置いてみてください。その上で、手元流動性の確保とのバランスを見ながら組み合わせを決める順番がおすすめです。決算の2〜3ヶ月前から動き始めると、打てる手が一気に広がりますよ。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。