先日、都内に収益物件を数棟持つ社長から、こんな言葉をいただきました。
「不動産も順調だし、会社の利益も出てる。でもなぜか、手元のお金が思ったより増えないんですよね」
話を聞いていくと、すべての不動産が個人名義のままでした。そしてその瞬間、「ああ、これだ」と思ったのです。
個人名義のまま持ち続けると、利益の半分以上が消える
個人で不動産を保有している場合、家賃収入には所得税と住民税が課されます。所得が積み上がるにつれて税率は上昇し、最高で所得税45%+住民税10%、合計55%という水準に達します。
仮に家賃収入が年間1,000万円あったとして、55%が税金なら手元に残るのは450万円。収入が増えれば増えるほど、国に渡す割合が大きくなっていく仕組みです。
努力して資産を増やしているのに、その果実の半分以上が毎年消えていく。それが個人名義の不動産オーナーが直面している、最も根本的な問題です。
法人で持てば、同じ収益に対する税率が34%まで下がる
同じ不動産でも、法人名義で保有すると話が変わります。法人の実効税率は約34%。個人の最高税率55%と比べると、約20ポイントの差があります。
年間2,500万円の不動産収益を例に計算してみましょう。個人なら最大で約1,375万円が税金に消えます。法人なら約850万円。その差は毎年約500万円以上になります。
この差を20年間積み上げると、1億円を超えます。「大げさな話では」と感じるかもしれませんが、税率差を愚直に計算するとそういう数字になるのです。税金は払った瞬間に消える。投資にも運用にも回りません。
「現金は残しながら利益だけ減らす」減価償却の力
法人で不動産を持つメリットは、税率の低さだけではありません。減価償却費を経費計上できることが、もう一つの核心です。
建物は年月とともに価値が減少するという考え方から、毎年一定額を経費として帳簿に計上できます。ポイントは、実際に現金が出ていくわけではないという点です。
1億円の建物を購入した場合、耐用年数に応じて毎年数百万円が経費になります。現金収支は変わらないのに、帳簿上の課税所得は圧縮される。これが「現金を残しながら税金だけ減らせる」と言われる理由です。
個人でも減価償却は使えますが、法人のほうが柔軟に活用しやすい構造になっています。節税効果を最大化するには、法人という器が前提になります。
「今すぐ移転」より「次から法人名義」が現実的
すでに個人名義で不動産を持っている社長が「じゃあ法人に移そう」と考えた場合、注意が必要です。
個人から法人への不動産移転は「売買」として扱われるため、不動産取得税・登録免許税・場合によっては個人側の譲渡所得税まで発生します。物件によっては、数百万円から数千万円単位のコストがかかることもあります。
そのため、最もシンプルな戦略は「これから取得する不動産は最初から法人名義にする」という方針です。すでに個人名義で持っているものについては、移転コストと20年分の節税効果を比較するシミュレーションを税理士に依頼したうえで判断するのが賢明です。
今期中に「法人保有シミュレーション」を一度やってみてください
法人で不動産を保有することは、単なる節税テクニックではありません。毎年積み上がる税負担の差を、資産形成と事業投資に回していくための、長期的な財務戦略です。
個人名義のまま持ち続けることの機会損失は、今この瞬間も静かに積み上がっています。次の物件取得を検討している方も、すでに複数の物件を個人で持っている方も、まず今期中に税理士と「法人保有シミュレーション」を一度やってみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。