毎年6月になると、事務所に分厚い封筒が届きます。住民税の特別徴収税額通知書。金額だけ確認して、そのまま引き出しに突っ込んでいる社長、けっこう多いんじゃないでしょうか。

先日、年商3億の不動産業を営む社長から、こんな話を聞きました。「顧問税理士に言われて初めて計算してみたら、役員報酬の設定を変えるだけで毎年180万円くらい浮く計算になった。3年間、何もしてなかったのが悔やまれる」と。住民税通知書は、ただの納付書ではなく「去年の設計ミスの通知表」でもあるんです。

その住民税、去年の自分への請求書です

住民税の仕組みを整理しておきましょう。住民税は今年の1月〜12月の所得をもとに、翌年6月から1年間かけて納める後払い制度です。今届いている通知書は、昨年の役員報酬をもとに計算されたもの。今年の報酬設定とは、まったく関係ありません。

これが「盲点」になる理由です。昨年、業績が好調だったからと役員報酬を月額100万円から150万円に上げた社長。今年6月から、150万円ベースで計算された住民税が1年分まとめて降ってきます。「去年の判断のツケ」が、1年遅れでじわじわ回収されていく構造です。

報酬が高くなるほど税率の罠にはまる

所得税には「超過累進課税」という仕組みがあります。稼げば稼ぐほど税率が段階的に上がっていく設計です。役員報酬が年1,000万円を超えてくると、所得税と住民税を合算した実効税率は40〜50%前後に達します。

つまり、役員報酬を100万円増やしても、手取りで増えるのは50〜60万円程度。残りはそのまま税金として消えていきます。「稼いでいるのにお金が残らない」と感じている社長の多くは、この構造にはまっています。

退職金との組み合わせが「最強の設計」

ここで有効になるのが、役員報酬を抑えて退職金の原資を積み立てる設計です。

たとえば、月額50万円報酬を下げれば、年間600万円が役員報酬から退職金原資へシフトします。この600万円は会社の損金(費用)として計上でき、かつ将来退職時に「退職所得」として受け取れます。

退職所得には「退職所得控除」という大きな優遇があります。勤続20年で最大800万円、20年超は1年ごとに70万円ずつ控除が増えます。勤続30年なら1,500万円まで非課税です。さらに退職所得は「2分の1課税」という特例もあり、同じ金額でも給与所得の半分以下の税率で済むことがほとんどです。

同じ3,000万円でも、役員報酬として毎年受け取るか、退職金として一括受け取るかで、手取り額は数百万から1,000万円以上変わることがあります。この差を理解している社長と、していない社長では、10年・20年でまったく別の資産残高になります。

「来年の住民税」を変えるタイムリミット

役員報酬の改定には、原則として「事業年度開始から3ヶ月以内」というルールがあります(定期同額給与の規定)。このタイミングを外すと、その期中は変更できません。

住民税の後払い構造を逆に使えば、今年の対策が来年6月の通知に直接反映されます。「通知が届いてから考える」では1年遅い。次の役員報酬改定に向けて、今から設計を始めることが重要です。

封筒を引き出しに突っ込む前に

今手元に通知書がある方は、次のポイントを確認してみてください。

  • 役員報酬が年800万円を超えている
  • 退職金の設計を具体的に考えたことがない
  • 社会保険料も含めた実質負担が収入の半分近い

2つ以上当てはまるなら、設計の見直しで年間数十万〜数百万円単位の節税余地があるはずです。

住民税通知書は「払って終わり」の書類ではありません。去年の設計の結果が数字になって現れた、年に一度の振り返りの機会です。顧問税理士に「役員報酬と退職金の比較シミュレーション」を依頼してみてください。数字を見れば、今の設計を変えるべきかどうか、すぐにわかります。まだ動いていないなら、次の改定タイミングが今期最後のチャンスかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。