先日、静岡で製造業を営む社長からこんな話を聞いて、思わず唸ってしまいました。

「保険を活用した退職金積立を始めたのは、40歳のころです。当時の顧問税理士に勧められるまま加入したんですが、65歳で引退するときに計算してみたら、保険なしで普通に退職金を積んでいた場合と比べて、手取りが約2億円も違ったんですよ」

2億円、です。聞き間違いではありません。

25年間、コツコツ積み上げた「節税装置」

佐藤社長(仮名)が加入したのは、法人向けの生命保険です。会社が保険料を払い込み、満期や解約時に返戻金が戻ってくる仕組み。ポイントは、支払った保険料の一部が損金として計上できる点にあります。

損金算入できるということは、課税対象の利益がその分だけ減る、つまり毎年の法人税が削減されるということです。25年間にわたって積み立て続けながら、毎期の税負担を着実に抑えていった。これが第一の節税効果です。

退職金として受け取るときの「もう一つの仕掛け」

25年後、佐藤社長が会社を退くタイミングで保険を解約します。まとまった解約返戻金が戻ってきて、その資金を原資に、会社から役員退職金として受け取る形にしました。

ここで登場するのが、退職所得の優遇課税です。退職金には、通常の給与や役員報酬とはまったく異なる計算式が適用されます。

  • 退職所得控除:勤続年数に応じて最大数千万円が非課税になる大きな控除
  • 1/2課税:控除後の残額をさらに半分にしてから税率を掛ける特例

勤続25年なら退職所得控除だけで1,250万円。その残りをさらに半分にした上で税率が適用されます。同じ金額を役員報酬で毎年受け取るのと比べると、税負担の差は歴然です。

「損金算入」×「退職金の優遇課税」の組み合わせが本質

佐藤社長が2億円の差を生んだ理由は、この2つの効果を25年かけて複合的に積み上げたことにあります。

保険料の損金算入によって毎年の法人税を削減しながら、引退時には解約返戻金を退職金に転換して個人の税負担も大幅に圧縮する。片方だけでも節税効果はあります。でも、両方を組み合わせて長期にわたって運用したからこそ、あの数字が生まれました。

シンプルに言えば、「会社で積む段階」と「個人で受け取る段階」の両方で節税できる構造になっているのが、法人保険×退職金戦略の強みです。

「自分も同じようにできる?」と思ったときに確認すること

ただし、そのまま真似すれば誰でも2億円増えるわけではありません。いくつか注意点があります。

まず、2019年以降に法人保険の税制が大きく見直されました。以前と比べて損金算入できる割合や商品の種類が変わっており、加入時期によって効果はかなり異なります。

次に、役員退職金の金額については、功績倍率・勤続年数・最終報酬月額をもとに「適正額」の基準があります。根拠なく高額にすると税務調査で否認されるリスクがあるので、合理的な設計が必要です。

会社の規模・キャッシュフロー・加入できる保険種類を総合的に見た上で、「今の自社に本当に合っているか」を専門家と確認するのが出発点になります。


佐藤社長の話で特に印象的だったのは、「顧問税理士が25年前に提案してくれた」という一言でした。

節税は、引退の直前に慌てて動いても間に合わないことが多いです。長期視点でコツコツと積み上げることで、はじめて「2億円」という差が生まれる。

まだ50代前半で、経営から退くまでに10年以上あるなら、今がちょうど準備を始める最適なタイミングかもしれません。まずは自社の退職金設計を、顧問税理士に一度相談してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。