先日、ある製造業の社長から深刻な相談を受けました。

「父が急逝して、いざ相続の手続きに入ったら、税理士から『相続税が8,000万円かかります』と言われた。そんな現金、どこにもない」

創業40年の会社を守ろうとした息子さんが、最終的に自社株の一部を売却せざるを得なかったというケースです。会社は残りましたが、経営権は大きく揺らいだと言っていました。

数字で見ると、これは「他人事」ではない

中小企業の相続案件を調べると、驚くデータが出てきます。後継者のうち約5人に1人が、相続税を支払えず自社株を手放しているというのです。

感覚的には「まさか」と思うかもしれません。でも計算してみると、納得できます。

自社株の評価額が3億円の会社があったとします。法定相続人が配偶者と子ひとりのケースで試算すると、相続税の総額は数千万円規模になることも珍しくありません。問題は、その税金を「現金」で払わなければならないという点です。

会社の価値は帳簿や株式に詰まっています。でも税務署は現金での納付を求めます。自社株をいくら持っていても、それはすぐに現金にはならない。

創業者が亡くなった瞬間に銀行も動く

相続税の問題だけではありません。創業者が亡くなった直後、取引銀行の態度が変わることがあります。

「創業者への個人的な信頼で融資を出していた」という銀行は、後継者に対して改めて審査をかけ直します。場合によっては、既存融資の見直しや新規融資の見送りを通告してくることもある。

相続税の支払いで現金が底をつく。銀行からの追加融資も止まる。そうなったとき、選択肢は「株を売るか、会社を清算するか」しかなくなります。

創業者が必死で育てた会社が、死後わずか1〜2年で他人の手に渡る。それが「5人に1人」という数字の裏にある現実です。

最大100%猶予できる制度が、2027年末で締め切られる

ただ、これを防ぐための制度があります。「事業承継税制の特例措置」です。

この制度を活用すると、後継者が自社株を相続・贈与で受け取る際にかかる相続税・贈与税を、最大100%猶予することができます。つまり、実質的に税金を払わずに株を引き継げる可能性があるのです。

猶予というのは「免除」とは違います。一定の条件を満たし続けることが求められますし、要件を外れると猶予が取り消されて納税義務が発生します。ただ、経営を続ける限りは事実上の免除に近い効果が期待できる仕組みです。

問題は期限です。この特例措置の適用を受けるためには、2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。

「まだ1年以上ある」と思うかもしれませんが、計画書の作成には税理士との打ち合わせ、認定経営革新等支援機関の関与、都道府県への提出と確認など、複数のステップが必要です。ギリギリで動き始めると間に合わないケースが出てきます。

「うちはまだ早い」という社長ほど危ない

事業承継の相談を受けていると、多くの社長が「自分はまだ元気だから」「後継者もまだ若いから」と先送りにしています。

でも相続は、いつ発生するかわかりません。健康診断の数値が良くても、交通事故や突然の病気がないとは言えない。準備していなければ、後継者は突然「数千万円の現金をどこかから用意してください」という現実に直面することになります。

特例措置の申請は、今の社長が生きているうちにしか動けない部分が多いのも特徴です。後継者が一人で動ける話ではありません。

自社株の評価額が高い会社ほど、この問題は深刻です。業績が良い会社を持っている社長こそ、早めに対策を打つべきだと思います。

まずは顧問税理士に「うちの自社株、今いくらになっていますか?」と聞いてみるところから始めてみてください。その数字を見てから、次の動きを考えるのが現実的なステップです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。