先日、こんな相談を受けました。

「現金が1億円ほど手元にあるんですが、このまま持っていたら相続税がどうなるか心配で……」

大阪で製造業を経営する65歳の社長さん。長年コツコツ積み上げてきたお金が、いざというときに税金で大きく目減りしてしまうかもしれない。そんな不安を抱えていらっしゃいました。

結論から言いましょう。この社長、最終的に収益マンションを1棟購入することで、相続税を約2000万円削減することに成功しました。

現金1億円はそのまま「1億円」として課税される

現金や預貯金は、相続税の計算において時価=評価額です。つまり1億円の現金は、1億円そのものが課税対象になります。

現在の相続税は累進課税ですから、課税対象の財産が多いほど税率が上がります。法定相続人の構成にもよりますが、課税対象が1億円規模になると、税額は数千万円に達することも珍しくありません。

「一生懸命貯めたお金が、死んだあとに大幅に目減りしてしまう」——多くの社長が感じるあの「もったいない」という直感は、実は正しい問題意識なんです。

不動産に換えると「評価額」が下がる理由

ここが節税の核心です。

不動産の相続税評価額は、時価そのものではありません。土地は「路線価」と呼ばれる基準で計算されるため、一般的に時価の7割前後まで評価額が下がります。1億円で買った物件が、相続税の計算上では7000万円の資産として扱われるイメージです。この時点でまず3000万円の圧縮が生まれます。

さらに、その物件を賃貸に出すと「貸家建付地」という評価方法が適用されます。入居者がいる土地は利用が制限されているという理由から、路線価ベースの評価額からさらに数%の引き下げが受けられます。

「買う」だけでなく「貸す」ことで、二段階の評価減が発動するわけです。

「小規模宅地の特例」との組み合わせが強力だった

この社長のケースで特に効いたのが、自宅の土地に使える「小規模宅地等の特例」との組み合わせです。

この特例は、亡くなった方が実際に住んでいた自宅の土地について、330㎡を上限に評価額を80%引き下げられるというもの。要件を満たせば、1000万円の土地評価が200万円になるほどのインパクトがあります。

収益マンションによる評価減と、自宅土地への小規模宅地特例を組み合わせた結果、課税対象となる財産の合計が約4000万円圧縮されました。税額ベースに換算すると、約2000万円の節税。それが今回の成果です。

「不動産を買えば必ず得」は危険な思い込み

ただし、ここで冷静になっていただきたいことがあります。

「不動産を買えば相続税が下がる」は事実ですが、物件の選び方や購入タイミング次第では逆効果になることもあります。たとえば空室率が高くて家賃収入が入ってこない物件では、節税効果があっても資産全体でマイナスになりかねません。

また、相続の直前に明らかな節税目的で不動産を購入した場合、税務署から否認されるリスクがあることも知られています。節税の仕組みは合法的であっても、物件の質・購入タイミング・税務要件の三つが揃って初めて意味をなします。

「とにかく不動産を買えばいい」ではなく、「どの物件を、いつ、どう組み合わせて買うか」が問われるのです。

「現金のまま持っている」社長は一度試算してみてください

手元に現金や預貯金を多く保有している経営者の方にとって、相続対策は「いつかやろう」では手遅れになりやすい問題です。対策には時間がかかりますし、早く始めるほど選択肢が広がります。

まず税理士に現在の財産構成を見せて、「何もしなかった場合の相続税額」だけでも試算してもらうことをおすすめします。その数字を目の当たりにすることで、多くの社長が「動かなければ」と腰を上げます。

現金1億円が、何もしなければそのまま課税される。手を打てば2000万円変わる。その差は、動くか動かないかの違いだけです。まだ対策を始めていない方は、ぜひ今期中に一度、専門家との相談の場を設けてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。