先日、創業28年の印刷会社を経営する社長と話をしていたとき、こんな言葉が出てきました。「うちはまだ大丈夫。後継者のことはもう少し落ち着いてから考えます」。
笑顔で言っていましたが、その会社の自社株の評価額はすでに6000万円を超えていました。私は少し心配になりながら、「その『もう少し』が一番危ないんですよ」と伝えたんです。
相続税は、現金で、10ヶ月以内に払う
自社株が5000万円の評価額であれば、相続が発生したとき、後継者には相続税がのしかかります。金額は家族構成や他の財産状況によって変わりますが、1500万〜3000万円規模になることも珍しくありません。
そしてこの税金、原則として現金一括払いです。しかも相続発生から10ヶ月以内という期限があります。
後継者であるお子さんや役員に、そこまでの現金がすぐ用意できるでしょうか。多くの場合、答えは「ない」です。
資金がなければ、会社を売るか解体するしかない
現金が用意できないとき、後継者に残された選択肢は厳しいものになります。
一つは、自社株を急いで売却すること。買い手を探す時間もなく、不利な条件での売却を余儀なくされるケースがほとんどです。もう一つは、最悪の場合として会社そのものの解体。創業者が何十年もかけて育ててきた事業が、相続税の支払いのために終わりを迎える。そういう現実が、実際に起きています。
社長本人は「会社を守りたい」と思っているのに、動かなかったことで後継者がその判断を迫られる。これが、事業承継の先送りが招く最悪のシナリオです。
業績が伸びるほど、先送りの代償は大きくなる
ここが見落とされがちなポイントです。
自社株の相続税評価額は、会社の業績と連動して変わります。売上が増え、利益が積み上がり、純資産が膨らむほど、株価の評価も上がります。
5年後に会社がさらに成長していれば、相続税の対象になる株の評価額も今より1.5倍、2倍になっている可能性があります。先送りは問題を先送りしているのではなく、問題を育てながら先送りしている状態なんです。
しかも、歳を重ねるほど健康リスクも高まります。事業承継の準備には時間がかかるため、余裕を持って始めることが不可欠です。
「事業承継税制」を使えば、税負担を大幅に抑えられる
現行の税制には、自社株の承継にかかる相続税・贈与税を大幅に軽減できる「事業承継税制」があります。要件を満たせば、税の納付を猶予・免除してもらえる制度です。
ただし、この制度には事前の認定申請が必要で、ある日突然「使います」と言っても間に合いません。計画的に動き始めた人だけが使える手段です。
早く動き始めれば、株の評価額を下げるための組織再編や役員退職金の活用など、選べる選択肢も広がります。逆に、時間がない状態で動き出すと、本来使えたはずの対策が取れなくなることが多い。
今日確認してほしい、たった2つのこと
難しく考えすぎず、まずはこの2点だけ確認してみてください。
ひとつ目、いまの自社株の評価額がいくらか。税理士に頼めば概算はすぐ出ます。
ふたつ目、後継者にその相続税を払える現金があるか。この二つを把握するだけで、何をすべきかが自然と見えてきます。
「まだ先の話」と思っている社長ほど、動き出すのが遅くなりがちです。でも相続税の対策は、時間をかけるほど手が広がる分野です。まだ税理士に相談していないなら、今期中に一度話を聞いてみることを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。