先日、61歳の製造業社長からこんな相談を受けました。

「息子に会社を渡したいんだが、相続税だけで1億2000万円かかると試算が出てね。そんなお金、どこから払えばいいんだ」

設立から28年、売上を積み上げてきた自社株の評価額は5億円に達していました。会社の価値が上がることは喜ばしいはずなのに、それが相続税の重荷になるという現実に頭を抱えていたわけです。

解決策は「法人保険×事業承継税制の特例」のコンボ

この社長の問題を解決したのが、法人保険と事業承継税制の特例措置を組み合わせた戦略でした。単独では威力が限られる施策でも、この2つを組み合わせると、1億円規模の承継コストを大幅に圧縮できます。

それぞれの仕組みを順番に見ていきましょう。

法人保険を「退職金の製造機」として使う

法人保険に加入する目的は、保険料の損金算入だけではありません。本当の旨みは「解約返戻金を退職金の原資にする」ところにあります。

社長が引退するタイミングで保険を解約し、その返戻金を役員退職金として支給する。このとき、退職金には2つの大きな税制優遇が適用されます。

ひとつ目は「退職所得控除」です。勤続年数が長いほど控除額が大きくなり、30年勤務なら1500万円が控除対象になります。ふたつ目は「1/2課税」。控除後の残額をさらに半分にした金額だけが課税対象になるため、同じ金額でも給与で受け取るより税負担が格段に軽くなります。

この製造業社長のケースでは、退職金を活用することで個人の所得税・住民税の負担を数千万円単位で抑えることができました。

2027年12月末が期限の「特例措置」で自社株を動かす

もう一本の柱が、事業承継税制の特例措置です。

通常、自社株を後継者に贈与・相続すると多額の税金がかかります。しかしこの特例を使えば、一定の要件を満たした場合に、贈与税・相続税を猶予してもらえます。会社を継続して経営し続けている限り、税金を支払わなくていい制度です。

顧問税理士と連携しながら、保険の解約返戻金で退職金を手当てしつつ、特例を使った株式移転を同時並行で計画する。この時系列の設計こそが、このコンボの肝です。

なぜ「コンボ」でなければいけないのか

法人保険だけでは、退職金を用意できても自社株の問題は残ります。逆に事業承継税制だけでは、引退後の社長自身の生活資金が手当てできません。

2つを組み合わせることで、「会社を守りながら、自分の老後も守る」という二兎を同時に追えるわけです。

落とし穴:タイミングと設計が命

ただし、このコンボには注意点もあります。

保険の種類(定期保険・逓増定期保険・終身保険など)によって損金算入のルールが異なります。2019年の税制改正以降、一部の保険は節税効果が大きく制限されました。解約のタイミングを誤ると、返戻金に法人税がかかる一方で退職金の原資が減るという「ダブルパンチ」が起きることもあります。

事業承継税制の特例も、申請期限・継続要件など細かい縛りがあり、途中で要件を外れると猶予が取り消されて一括納付が求められます。

特例の申請期限である2027年12月末まで、残り時間は多くありません。「まだ先の話」と思っているうちに期限を逃してしまうリスクは、業績の良い会社ほど高いと感じています。

まず「自社株の試算」から動き始める

事業承継の問題は、引退間際に考えるものではありません。保険の準備期間も、特例の申請手続きも、時間がかかります。

まずは顧問税理士に「自社株の評価額と相続税の試算」を依頼してみてください。数字が見えると、どの手を打つべきかが自然と見えてきます。自社株の評価が5億円を超えているなら、今期中に動き始めることを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。