先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「60歳で引退を考えているんだけど、退職金の原資をどうやって作ればいいかわからなくて」と。
会社の利益は出ている。でも現金のまま手元に置いておけば法人税がかかる。かといって雑に使えば損金にならない。そういったジレンマを抱えている社長は、意外と多いものです。
そこで活きてくるのが「法人保険を使った出口設計」です。保険というと万が一のリスク対策というイメージが強いかもしれませんが、法人保険にはもう一つの顔があります。節税しながら引退資金を積み立て、退職金の支払いタイミングで解約して資金を捻出する、出口設計の道具としての顔です。
今回は、相談を受ける中でとくに使われることの多い保険を3つ、使いどころの整理と一緒にお伝えします。
3位:養老保険(ハーフタックスプラン)
3位は「養老保険」、いわゆるハーフタックスプランです。
この設計の最大の特徴は、保険料の半分を損金に算入できる点です。残りの半分は資産計上になりますが、満期時にも死亡時にも同額の保険金が支払われる設計のため、貯蓄性と保障が両立しています。どちらに転んでも返戻金が出るという安心感があり、出口設計の入門として検討されることが多い保険です。
ただし、一点だけ重要な制約があります。役員だけを被保険者にすることはできません。全従業員を対象にすることが損金算入の条件になっています。
従業員数が多い会社では保険料の総額が膨らみすぎることもあり、使いどころを選ぶ保険ではあります。10〜30人規模の会社で、福利厚生の整備も兼ねて検討したい、という場合に特に相性が良い設計です。
2位:長期平準定期保険
2位は「長期平準定期保険」です。社長の引退設計でよく使われる、定番中の定番といえる保険です。
この保険の肝は、加入から10〜20年後にかけて解約返戻率がピークを迎える設計にあります。ピーク時の返戻率はおおむね60〜70%程度。保険料の多くが戻ってくるこのタイミングに、退職金の支給を合わせるのが定石の使い方です。
具体的なイメージでいうと、解約益として2,000万円が益金に立つ年度に、退職金3,000万円を損金算入すれば、差し引き1,000万円の損金超過になります。タイミングをうまく合わせられれば、解約益のほぼ全額を相殺できる計算です。
注意したいのは、加入初期に解約すると返戻率が著しく低くなる点です。「数年後に急きょ会社を畳むことになった」という場合には損失になることもあります。加入前に引退シナリオをある程度固めておくことが、この保険を活かす前提になります。
1位:逓増定期保険
1位は「逓増定期保険」です。出口資金として最も機動的に動かせる設計として、私が相談を受ける中でも近年とくに注目されている保険です。
「逓増」とはだんだん増えるという意味で、この保険は保険金額が契約当初の最大5倍まで段階的に増加していく仕組みになっています。その分だけ解約返戻率の上昇も速く、長期平準定期保険よりも早いタイミングで高い返戻率に到達するケースがあります。
使い方の基本は長期平準定期と共通で、解約返戻率が高い時期に退職金を支給して解約益を相殺します。ただ逓増定期は機動性が高いため、「今から5〜10年以内に引退を考えている」という社長に特に向いている設計です。長期平準定期より短いスパンで出口を描けるのが強みです。
一方で、2019年の税制改正でこの種の保険の損金算入ルールが大きく変わりました。以前は全額または大半を損金に算入できる商品が多く販売されていましたが、改正後は損金算入できる割合が保険の設計によって異なります。同じ「逓増定期」でも商品によって扱いが変わるため、設計の段階で必ず税理士に確認することが欠かせません。
保険選びで失敗しないために一番大切なこと
どの保険が最適かは、社長の年齢・引退予定時期・会社の利益水準・従業員の構成によって変わります。3つの中に「これを選べば間違いない」という絶対解はなく、自社の状況に合わせた設計が前提になります。
よくある失敗は、「損金になる」という点だけに引きつけられて加入し、解約返戻率のピーク前に引退が来てしまったり、逆にピークを過ぎてから解約することになってしまうケースです。保険は加入後に簡単に設計変更ができないため、出口のシナリオを先に描いてから保険を選ぶ順番が大切です。
引退資金の設計は、遅くとも引退の10年前から始めるのが理想とされています。「まだ先の話だから」と後回しにしていると、選択肢が狭まっていきます。まだ何も手を打っていないなら、今期中に一度税理士と出口の絵を描いてみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。