先日、長年会社を経営してきた60代の社長からこんな話を聞きました。「引退して初めてわかったけど、現役のときにやっておくべきことが山ほどあったね」と、少し寂しそうに笑っていました。

その社長は決して無計画だったわけではありません。でも、「引退後のお金」という視点が、現役時代にはすっぽり抜け落ちていたのです。

今回は、実際に引退を経験した経営者から聞こえてくる「しまった」の声を、頻度の高い順にまとめてみました。まだ現役の方には、今のうちにぜひ確認しておいてほしい内容です。

3位:引退した翌月から、収入が激減した

役員報酬は、社長が現役を退いた瞬間にゼロになります。これは当たり前のことのように聞こえますが、実際に引退してみて初めてその現実に気づく方が少なくありません。

引退後の収入源として中心になるのは、多くの場合、厚生年金です。ただし受給額は人によって異なるものの、月20〜25万円前後が一般的なラインです。役員報酬が月100万円以上あった方からすると、収入が一気に5分の1以下になるわけです。

生活水準をそのままに維持しようとすれば、当然ながら貯蓄の取り崩しが始まります。「まさか自分がこうなるとは」という声は、決して珍しくありません。引退後の生活費シミュレーションは、まだ役員報酬を受け取っているうちに済ませておくのが鉄則です。

2位:株価が高いまま、息子に会社を渡してしまった

事業を次世代に引き継ぐとき、多くの社長が見落としがちなのが「自社株の評価額」です。会社の業績が好調なほど株価は上がり、承継時の贈与税・相続税の負担も重くなります。業績が絶好調なタイミングで渡してしまうと、数千万円単位の税負担が発生することもあります。

こうしたケースに対応するために「事業承継税制の特例措置」という制度があります。要件を満たせば、贈与税・相続税の納税が最大100%猶予されるケースもある、非常に強力な制度です。うまく活用すれば、承継時の税負担をほぼゼロに抑えられる可能性があります。

ただし、この特例措置には申請期限があります。2027年12月末までに「特例承継計画」を都道府県に提出しておかなければなりません。「いつか使おう」では間に合わなくなります。すでに引退してしまった社長からは「あのとき税理士に相談していれば」という声を何度も聞きました。まだ承継前の方は、今すぐ動き出すことをおすすめします。

1位:退職金をもらうタイミングが、早すぎた

引退した社長が最も口をそろえて後悔するのが、退職金の受け取り時期です。

退職金には「退職所得控除」という大きな節税メリットがあります。この控除額は勤続年数によって決まります。勤続20年以下は1年あたり40万円、20年超の部分は1年あたり70万円が控除されます。

たとえば、勤続30年であれば退職所得控除は1,500万円。一方、勤続10年では400万円です。その差は1,100万円。この差がそのまま課税対象になるかどうかに関わってくるのですから、受け取り時期の違いが手取りに与えるインパクトは相当なものです。

「もう少し続けていれば、退職金への税負担がこんなに違ったとは」という後悔は、本当によく聞きます。引退を考え始めた段階で、勤続年数と退職所得控除の計算を一度確認しておくだけで、選択肢の幅が大きく広がります。

後悔しないために、今期中に動いておく

この3つの失敗に共通するのは、「引退する前に気づいていれば防げた」という点です。

現役のうちは忙しくて後回しにしがちですが、引退後の設計こそ早めに取り組むべき経営課題です。特に退職金の受け取り時期と事業承継の税対策は、一度決断したら取り消しが効きません。「自分のケースはどうなるんだろう」と少しでも気になったなら、それが動き出すサインです。

今期中に一度、顧問税理士と「引退後のシミュレーション」をしてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。