「社長、その保険、もったいない使い方をしていませんか?」
ある日、顧問先の製造業の社長からこんな話を聞きました。「5年前に税理士に勧められて法人で保険に加入したけど、正直なところ何のために入っているのかよく分かっていなかった」と。
その社長は60代。そろそろ息子への事業承継を具体的に考え始めたタイミングで、ふと保険証券を見返したそうです。すると解約返戻金が3,000万円近くまで積み上がっていて、「これ、使えるんじゃないか」と直感した。
その直感は正しかったのです。法人保険は、承継設計に組み込んで初めて「本当の意味での資産」になります。今日は、その具体的な3つの場面をお話しします。
場面① 自社株の集約資金として使う
子どもへの事業承継を進めるとき、意外と頭を悩ませるのが「他の相続人」の問題です。自社株は先代社長の相続財産ですから、兄弟姉妹にも相続権があります。
「会社は長男に継がせたいけど、次男・三男にも公平にしたい」。そう考えた結果、自社株が分散してしまい、後継者が過半数を持てないという事態が起こりえます。これを防ぐには、他の相続人から株を買い取る必要があります。
そのときの買取資金として、法人保険の解約返戻金が機能します。3,000万円の解約返戻金があれば、株の集約という承継上の最重要課題を乗り越える原資になるわけです。「そんな資金どこから出すんだ」という問いに、保険が答えを持っていることは少なくありません。
場面② 退職金を捻出しながら株価も下げる
先代社長が退職するとき、退職金は節税の定番手法として知られています。退職金は損金に算入できますし、受け取る側も退職所得控除があるため、給与よりも税負担がずっと軽い。
ここで法人保険の解約返戻金を退職金の原資にすると、さらに面白い効果が生まれます。解約返戻金を受け取ると法人の利益が増えますが、退職金として支払えばその利益を打ち消せます。そして退職金の支払いで純資産が減り、自社株の評価額が下がる。
株価が下がれば、後継者が株を買い取る際に必要な資金も少なくて済む。一石二鳥、いや一石三鳥の効果です。ただし退職金の額は「不相当に高額」と見なされないよう、功績倍率のルールを守ることが大前提になります。この点は必ず税理士と事前にすり合わせてください。
場面③ キーマンリスクで会社と従業員を守る
承継が完了するまでの間、先代社長が急逝してしまったら何が起きるでしょうか。
後継者はまだ経営に慣れていない。金融機関との信頼関係も先代を中心に構築されていた。主力の大口取引先も「社長が変わったら大丈夫か」と不安を抱く。承継期は、実は会社として最も脆弱な時期でもあります。
そのリスクに備えるのがキーマン保険の役割です。先代が急逝した場合、保険金が法人に入ります。その資金で事業の穴を埋めたり、従業員の雇用を守るための運転資金に充てたりすることができます。「万が一のとき、従業員を路頭に迷わせたくない」という社長の想いを、保険という形で担保しておくのです。
保険を「コスト」で終わらせないために
法人保険に加入している社長の多くは、「万が一の保障」か「節税」のどちらかを目的としています。もちろんそれ自体は正しいのですが、承継設計という視点が抜けていることが多い。
加入したまま放置している保険証券が手元にあるなら、一度「承継でどう活用できるか」という視点で見直してほしいのです。解約返戻金がいくらあるか、いつ最高値になるか。それだけでも確認する価値があります。
承継は「そのうち考える」では間に合わなくなることがあります。特に60代に差し掛かった社長には、今期中に保険の活用シミュレーションを税理士や保険のプロと一緒に試算しておくことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。