先日、こんな相談を受けました。「来年で引退を考えているんですが、退職金ってどうすれば増やせますか?」
その社長、勤続28年。役員報酬は月60万円。退職金規程はなし。
計算してみると、規程なしの状態では税務調査で「相当な金額を超えている」と指摘されるリスクが高く、安全に受け取れる金額はかなり圧縮されていました。あと5年早く動いていれば、手取りが3,000万円以上変わっていたかもしれない。そんなケースは、決して珍しくありません。
まず、計算式を頭に入れておく
役員退職金には、税務上「相当な金額」として認められる計算の目安があります。
最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率
たとえば月額100万円・勤続30年・功績倍率3倍なら、100万×30×3=9,000万円が一つの目安です。この3つの掛け算のどこかが弱いと、受け取れる退職金は大きく下がります。逆に言えば、3つを正しく設計するだけで、同じ勤続年数でも受取額は何千万円も変わってくるのです。
第3位:「功績倍率3倍が上限」は誤解
「3倍を超えると税務署に否認される」という話を聞いたことはありませんか?
実はこれ、法律で決まった上限ではありません。過去の判例や実務事例をもとにした「目安」に過ぎないのです。会社の業績への貢献度、同業他社との比較、在任期間中の実績など、合理的な根拠を整備できれば、3倍を超える倍率を設計することも可能です。
ただし、根拠のない高倍率は当然リスクを高めます。退職金規程に倍率を明記し、その根拠となる資料を用意することがセットで必要です。ここを怠ると、倍率だけ高くしても税務調査で削られる可能性があります。
第2位:退職金規程がないと「設計の土台」がない
意外に多いのが、退職金規程を整備していない会社です。
規程がないと何が困るかというと、「この退職金はどんな根拠で決まったのか」を税務調査官に説明できなくなります。根拠が曖昧であればあるほど、「過大退職金」と判断されやすくなるのです。
逆に、規程があることで「合理的な計算式に基づいた金額です」と胸を張って説明できます。規程の内容が完璧である必要はありません。「明文化されていること」そのものが、税務対策の根幹になります。今からでも顧問税理士と一緒に整備できる話ですので、先送りにしていた方はぜひ動いてみてください。
第1位:退職金の金額を決めるのは「最終報酬月額」
3つのポイントの中で、もっとも金額に直結するのがこれです。
先ほどの計算式に戻ってみましょう。もし最終報酬月額を月30万円引き上げると、勤続30年・功績倍率3倍の場合、30万×30×3=2,700万円の差になります。たった月30万円の違いが、退職時の手取りを2,700万円も変えるのです。
だからこそ、引退の3〜5年前から段階的に役員報酬を引き上げておくことが鉄則です。ポイントは「段階的に」という点。急に引き上げると退職金目的と見られるリスクがあります。業績の成長や会社の実態に合わせて、毎期少しずつ引き上げていくのが正攻法です。また、報酬を上げると法人税や社会保険料にも影響しますので、総合的なシミュレーションが欠かせません。
「引退はまだ先」が一番危ない
退職金の設計は、5年・10年のスパンで考えるものです。「引退が近くなってから考えよう」では手遅れになるケースが多いのです。
退職金規程の整備、功績倍率の根拠整理、そして最終報酬月額の段階的な引き上げ——どれも今日から動ける話です。まだ退職金規程を整備していないなら、今期中に顧問税理士と一度じっくり話し合ってみてください。数千万円の差が、そこにあるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。