先日、大阪のある製造業のオーナー社長——田中さん(58歳)——から、こんな話を聞かせてもらいました。
「会社に1億円の余剰資金があったんだけど、ずっと定期預金に入れてたんだよ。金利が0.02%だから、年間に増えるのが2万円だけ。それに気づいたとき、さすがに愕然としたよ」
退職まであと5年。利益はしっかり積み上げてきた。でも、その資金の「使い方」だけが、完全に止まっていたのです。
0.02%で眠らせていた1億円の話
多くの中小企業オーナーが、「会社のお金は安全に」という考えから、まとまった現金を定期預金や普通預金に置いています。
安全を優先する気持ちはわかります。でも、インフレが2〜3%進む時代に、0.02%の利率は「じわじわと実質価値が目減りしている」のと同じ状態です。1億円が10年後にどれだけの価値を持っているか、真剣に考えたことはあるでしょうか。
田中社長が動き始めたのは、まさにこの「機会損失」に気づいてからのことでした。
「自己資金2,000万円で1億円を動かす」という逆転の発想
田中社長が選んだのは、法人名義での収益不動産購入でした。
自己資金2,000万円を頭金として、残り8,000万円は金融機関から借り入れる。合計1億円の収益物件を法人で取得する、いわゆる「レバレッジ」を効かせた手法です。
その物件が生み出す家賃収入は、年間600万円。この数字を投入した自己資金2,000万円で割ると、表面上の利回りは年利30%超になります。そこから借入金利や管理費、修繕積立金などの諸経費を差し引いても、実質的な利回りは年利20%前後を継続的に維持しているのです。
定期預金の0.02%と比べると、もはや別次元の話です。
なぜ「法人」で買うのが有利なのか
個人でも収益不動産は取得できます。ただ、田中社長があえて法人名義を選んだのには、明確な理由があります。
法人で家賃収入を受け取ると、役員報酬の設計と組み合わせることで所得分散が可能になります。個人の総合課税で高い税率をそのままかけられるより、法人という器でコントロールしたほうが、手残りが大きくなるケースが多いのです。
さらに田中社長が重視していたのは、退職金設計との掛け算です。物件を一定期間保有したあと、退職のタイミングで売却することで、退職金の損金算入と売却益を計画的に組み合わせ、法人税の負担を最小化する出口戦略まで事前に設計していました。「買ったあとどうするか」まで見据えているのが、この手法のポイントです。
「年利20%」には当然リスクもある
ただ、ここで話を終わらせるわけにはいきません。
不動産投資には、空室リスク、金利上昇リスク、物件の老朽化や修繕コスト、そして売却時の市場環境など、さまざまなリスクが存在します。「1億円の物件を法人で買う」という判断は、会社の財務状況、借入余力、物件の立地・築年数・入居状況を精査したうえでなければ、意味がありません。
田中社長がうまくいった背景には、税理士と不動産専門家の両方に事前相談し、出口戦略も含めた複数シナリオのシミュレーションを組んでから動いた、という準備があります。「とりあえず買ってみた」では、こうはならなかったはずです。
会社の余剰資金を「眠らせない」という選択
日本の中小企業には、内部留保をため込みながらも、その活用方法を持っていない会社が数多くあります。利益を積み上げてきたこと自体は立派ですが、「眠らせているだけ」は機会損失です。
特に、退職が見えてきたオーナー社長にとって、今こそ「出口に向けた資産活用」を設計するタイミングです。会社の余剰資金を、合法的に、税効率よく動かす方法は、意外と知られていません。
まだ余剰資金の運用方針を持っていないなら、今期中に一度、税理士や不動産専門家を交えた資産シミュレーションを組んでみてください。定期預金に1億円を眠らせたまま退職日を迎えるのは、あまりにもったいないことです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務・投資判断は税理士や不動産専門家にご相談ください。