「先代が急に亡くなって、会社がどうなるか……」という相談を、ここ数年で何件受けたかわかりません。
オーナー社長が突然亡くなったとき、会社には二つの危機が同時に訪れます。株の相続をめぐる遺族のトラブルと、多額の相続税です。
そして「法人保険は節税になる」と聞いて加入したはずの保険が、むしろ相続トラブルを悪化させてしまうケースがあるのをご存じでしょうか。
保険金2,000万円が、1,600万円の相続税増を招いた
ある製造業の田中社長が、60代前半で急逝しました。生前、万が一のためにと法人名義で死亡保険金2,000万円の保険に加入していました。
ところが、受取人が「会社」だったため、死亡保険金は会社の資産として計上されます。会社の資産が増えれば、当然ながら自社株の評価額も上がります。
結果として、相続財産である自社株の評価が大幅に上昇し、相続税が1,600万円跳ね上がりました。遺族には現金がなく、相続税の支払いに行き詰まり、会社の経営方針をめぐって家族間の対立が深まっていきました。
「保険に入っていたのに、なぜこんなことに」と思いますよね。答えは、保険の「出口設計」ができていなかったからです。
法人保険を相続対策にする、正しい3つの使い方
法人保険が相続対策として本来の機能を発揮するには、次の3つのポイントを事前に設計しておく必要があります。
① 保険料の損金算入で、自社株評価を下げる
保険商品によっては、毎年の保険料の一部または全部を損金として計上できます。損金が増えれば利益が圧縮され、純資産が減少します。純資産が下がれば、自社株の評価額も下がる。これが入口段階での効果です。
田中社長のケースとは逆の話です。保険料を払い続けることで、生前から自社株評価を抑制しておけます。
② 解約返戻金を退職金の原資にする
社長が亡くなったとき、あるいは引退するタイミングで保険を解約し、解約返戻金を「退職金」として遺族や後継者に渡します。
退職金には「退職所得控除」という税制上の優遇があるため、同じ金額を受け取っても、通常の給与所得より税負担がはるかに軽くなります。
③ 死亡退職金として支払い、相続税の非課税枠を活用する
会社が社長の遺族に死亡退職金を支払う場合、法定相続人1人につき500万円が相続税の非課税枠として認められています。
配偶者と子ども2人が法定相続人であれば、3人×500万円=1,500万円が非課税になります。この枠を最大限使うために、保険金額を逆算して設計しておくわけです。
事前設計した社長が、相続税を1,200万円圧縮した
田中社長と同規模の会社を持つ鈴木社長は、顧問税理士とともにこの3つを組み合わせた保険設計を5年前から実行していました。
定期的な保険料の損金算入で自社株評価を抑え、退職金原資の準備を進め、万が一の際の非課税枠も計算に組み込んでいた。準備は地味でしたが、確実に積み上がっていました。
鈴木社長に万が一があったとき、相続税の負担は田中社長のケースと比べて1,200万円少なくなりました。遺族は会社の経営をスムーズに引き継ぎ、争いもありませんでした。
同じ規模の会社で、これだけ結果が変わります。差はたった一つ、「事前に設計したかどうか」です。
保険設計は「財務状況ありき」で考える
ただし、一点だけ注意してください。法人保険の設計は、会社の財務状況と密接に絡み合います。
どの保険商品を選ぶか、損金算入の割合はどのくらいか、保険金額はいくらが適切か——これらはすべて、自社の決算書と税務状況をベースに判断しなければなりません。
「他社の社長がやっていたから」「ネットで読んで良さそうだったから」という理由だけで加入すると、田中社長のように逆効果になることもあります。
まだ法人保険の見直しをしていないなら、今期中に一度、顧問税理士に「相続対策も含めた保険設計を確認したい」と相談してみてください。相続は必ずいつか発生します。準備は早ければ早いほど、選択肢が広がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。