先日、創業28年の会社を息子に引き継ごうとしていた社長から、こんな相談を受けました。

「退職金を3億円もらう予定で、役員報酬を高めに設定してきたんです。でも税理士から『否認されるかもしれない』と言われて…」

退職金は「最後の節税」と呼ばれるほど、法人税と個人の所得税を同時に圧縮できる強力な手段です。ところが、実は**役員退職金の否認事例は約30%**にのぼるとも言われています。3件に1件は税務署に「ノー」と言われている計算です。

なぜ否認されるのか。実は典型的なパターンが3つあります。今回はその中身を丁寧に見ていきます。

パターン1:功績倍率が「常識外れ」の高さだった

役員退職金の金額は、多くの会社でこんな計算式を使って決めています。

最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率

たとえば月額報酬100万円、勤続30年なら、倍率3倍で9,000万円。倍率の目安は一般的に2〜3倍とされています。

ただし、ここで勘違いしている社長が多い。「2〜3倍が目安」というのは法律で定められた上限ではなく、税務上トラブルになりにくい「参考値」にすぎません。

実際には、同業種・同規模の会社と比べて著しく高い倍率を設定していると、税務署から「過大な役員退職金」と判断されます。その場合、超過分が損金不算入となり、法人税の追加課税が発生します。

月額200万円×30年×倍率5倍で3億円という設計をしていた場合、「倍率5倍は認めない、3倍が上限だ」と言われると、損金に算入できない差額が約1億2,000万円。税率30%で計算すれば3,600万円の追加課税です。

パターン2:実質的に「退職していない」と判断された

「代表取締役を退いた日=退職日」と思っている方も多いですが、税務署の見方は違います。

代表を退いた後も、週に何日も会社に顔を出し、主要な経営判断に関与し続けていた場合、「実態として退職していない」と判断されます。その結果、支払った退職金が全額否認されるケースがあります。

このパターンに引っかかりやすいのは、事業承継で息子や娘に代表を譲ったものの、後見人的な立場でいつまでも関与してしまう「先代社長」です。

「相談を受けただけ」「会議に出ただけ」では通用しません。権限委譲の実態を証明できるかどうかが鍵です。具体的には、意思決定の記録、対外的な代表者変更の周知、給与の水準変化など、複数の証拠を残しておく必要があります。

パターン3:議事録と退職金規程が存在しない

退職金をいくら払うかを決めたとき、その根拠書類はちゃんと残っていますか?

「うちは昔から社長が決めてきたから」という会社が、実は一番危ない。税務調査では「なぜこの金額を支払ったのか」を必ず問われます。そこで退職金規程がない、株主総会の議事録がないとなると、根拠のない支出と判断されて全額否認されるリスクがあります。

最低限、以下の2点は整備しておく必要があります。

  • 役員退職慰労金規程(計算式・支給基準を明記したもの)
  • 株主総会の議事録(退職金支給を決議した記録)

規程は難しいものである必要はありません。ただし、支給額の根拠が明確に読み取れる内容にすること。そして、退職後に「遡って」作成したものは当然認められません。

3億円の退職金を守るために、今すぐやるべきこと

退職金の設計は、退職する「直前」ではなく、少なくとも3〜5年前から顧問税理士と一緒に計画するものです。

功績倍率の合理的な水準はどのくらいか、同業他社の事例はどうか、退職後の関与をどこまで断ち切るか——こういった判断は、場当たり的に決めると後から大きなダメージになります。

特に事業承継を控えている社長は、退職金の設計を「節税の仕上げ」として位置づけ、規程と議事録の整備から始めてみてください。今期中に動けば、まだ間に合うケースがほとんどです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。