「もう現役を退くつもりで、手元に5億ほどある。これをどう守ればいいですか?」
先日、製造業を長年経営してきたある社長から、こんな相談を受けました。長年かけて築いた資産を次世代にしっかり残したいという思いは強い一方で、「守り方を間違えると、相続税で大きく目減りするリスクがある」とも感じた瞬間でした。
結論から言うと、引退後の資産管理で最も節税効果が高いのは不動産です。そして意外かもしれませんが、最も節税効果が期待できないのは株式です。今回は3つの選択肢を相続税の観点から比較してみます。
3位:株式——手軽だが、節税効果はほぼゼロ
株式は流動性が高く、急なときにも現金に換えやすい安心感があります。引退後の資産の一部として保有すること自体は自然な選択です。
しかし相続税の計算において、上場株式は相続が発生した時点の市場価格(時価)で評価されます。5億円分の株を保有していれば、そのまま5億円が課税対象になります。節税の余地がまったくありません。
配当収入を受け取りながら資産を維持するのは有効ですが、「相続税を減らす」という観点では最も効果が薄い選択肢です。流動資産として一定額を持つのはいいとしても、節税を本気で考えるなら他の手段と組み合わせることが欠かせません。
2位:生命保険——非課税枠は使うべきだが力不足
生命保険の死亡保険金には「法定相続人の数×500万円」の非課税枠があります。法定相続人が3人いれば、最大1,500万円まで相続税がかかりません。この枠は比較的シンプルに使えるため、相続対策の入口として多くの方が活用しています。
ただし5億円という資産規模で考えると、1,500万円の非課税は全体のわずか0.3%。効果としては限定的と言わざるを得ません。「保険で5億を丸ごと守る」のは、現実的ではないのです。
また、かつては一時払い保険を使った大規模な節税スキームが広く行われていましたが、税制改正によって規制が強化されました。古い情報をもとに動くと思わぬリスクが生じるため、最新の制度を確認したうえで活用することが重要です。
1位:不動産——評価額を最大40%圧縮できる唯一の手段
不動産が相続税対策として最も有効な理由は、「評価額」が実際の市場価格より大幅に低くなるからです。
たとえば5億円の現金を賃貸物件に換えた場合、相続税評価額は物件の種類や借地権割合にもよりますが、最大で約40%圧縮されるケースがあります。5億円の現金が、税務上は約3億円相当として評価される計算です。相続税額にして数千万円規模の差が生じることも珍しくありません。
さらに賃貸物件であれば毎月の家賃収入も継続して入ります。資産を守りながら収益も生む、まさに「攻守一体の節税」です。引退後の生活費の補填にもなるため、現役時代より安定した運用ができると感じる方も少なくありません。
ただし、流動性が低い点は弱点です。急な資金需要には対応しにくく、管理コストや空室リスク、修繕費も現実のコストとして発生します。立地や物件選びを誤ると、節税どころか損失が膨らむリスクもあるため、物件選定には慎重さが求められます。
3つを組み合わせることが現実的な答え
「不動産が最も有効だから5億円すべてを不動産に換える」というのは現実的ではありません。引退後の生活費・緊急予備費として、ある程度の流動資産は必ず手元に置いておく必要があります。
現実的には、資産全体の3〜4割程度を収益不動産に換えて評価圧縮を図り、生命保険の非課税枠はフル活用する。残りは株式や現金で流動性を確保する、というバランスが取れた組み合わせになるケースが多いです。
もっとも、ご家族の構成や物件の立地・種類によって最適な組み合わせはまったく変わります。5億円規模の資産をお持ちであれば、相続専門の税理士と早い段階から対策を立てることをおすすめします。「引退してからゆっくり考えればいい」ではなく、お元気で判断力があるうちに動いておくこと。それが結果的に、一番大切な節税策になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。