先日、製造業を営む60代の社長からこんな相談を受けました。「税理士に相続税の試算を頼んだら、2億円を超えていたんです。会社を継がせるつもりで育ててきたのに、これじゃ息子が可哀想で……」。
長年かけて会社を大きくしてきた。その成長が今度は「重荷」になろうとしている。そんな状況に、胸が痛くなりました。
自社株が8億円になった日
田中社長(仮名・62歳)の製造業の会社は、ここ10年で大きく成長しました。売上も利益も伸び、気づけば自社株の評価額は8億円超。
相続税の試算を依頼すると、出てきた数字は2億円を上回っていました。後継者が現金を手当てできるかどうかも怪しい水準です。「このままでは会社そのものが危ない」と、田中社長は青ざめました。
税理士が提案した「持株会社」という選択肢
相談を受けた税理士が提示したのが、持株会社の設立でした。
持株会社とは、事業会社の株式を保有することを主な目的とする会社のこと。「大企業だけの話では?」と思われるかもしれませんが、中小企業の事業承継でも非常に有効な手法です。
仕組みをざっくり説明するとこうなります。新しく設立した持株会社は、設立直後の純資産がほぼゼロの状態です。このタイミングで、後継者にこの持株会社の株を持たせます。その後、田中社長が保有する事業会社の株式を持株会社に移転し、持株比率を組み替えていく流れです。
こうすることで、持株会社の株式評価額は事業会社株の評価とは異なる計算方法が適用されるケースがあり、結果として相続税の対象となる評価額を大きく圧縮できる可能性があります。
結果:相続税試算が約40%圧縮に
田中社長のケースでは、この仕組みを活用したことで、2億円超だった相続税試算が約40%の圧縮に成功しました。かなり現実的な数字に変わったわけです。
さらに田中社長は、事業承継税制の特例措置も組み合わせました。一定の要件を満たせば、自社株にかかる相続税・贈与税の納税が猶予される制度で、後継者の資金負担を大幅に軽減できます。
ただし、この特例には期限があります。実際の適用(贈与または相続)は2027年12月末までが要件のひとつ。動ける時間は、思っているより短いのです。
「10年早く知りたかった」という一言
手続きが落ち着いた田中社長は、こう語っていました。「10年早く知りたかった。もっと若いうちから準備しておけばよかった」。
この言葉は重いと思います。持株会社の設立には一定の準備期間が必要で、設立直後から株価の動きも始まります。「引退を考え始めてから動く」では、選択肢がすでに狭まっているケースも少なくありません。
特に自社株の評価額が高くなっている社長ほど、早めに現状把握と対策の検討を始めることが大切です。
活用する前に知っておきたいこと
持株会社を使った節税は強力ですが、注意点もあります。
設立には費用と手間がかかりますし、持株会社と事業会社の二層構造になることで、日々の管理コストも増えます。節税効果とのバランスを考えた設計が必要です。
また、税制は頻繁に改正されます。今の評価額計算のルールが将来も同じとは限りません。専門家と定期的に状況を見直す体制を作ることが、長期的な節税戦略には欠かせません。
自社株の評価額が膨らんできたと感じているなら、まずは現状の株価評価と相続税試算を専門家に依頼してみてください。「うちはまだ大丈夫」と思っていた社長ほど、試算を見て驚くケースが多いものです。相続税対策は早く動くほど選択肢が広がります。2027年末という期限も意識しながら、早めの一手を検討してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。