先日、製造業を営む65歳のオーナー社長からこんな相談を受けました。「息子に株を渡したら、税金が3000万近くかかると言われて……どうしたらいいですか」と、少し青ざめた顔でおっしゃっていたのが印象的でした。
話を聞いてみると、会社の業績が好調な時期に「今こそ後継者に経営を引き継ぐタイミングだ」と思い立ち、自社株を息子さんに贈与したとのこと。気持ちはよく分かります。業績が良い今のうちに、と考えるのは自然なことです。
ただ、この判断が大きなコストを生みました。
株価が高いときに贈与すると、なぜ税負担が膨らむのか
自社株の贈与税は、贈与した時点の「株式評価額」を基準に計算されます。業績が好調な年は、会社の純資産も利益も高くなるため、株価評価も上がります。
この社長のケースでは、好業績の年に贈与を実行したため株価評価が高い状態で計算され、最大55%という税率が適用されました。結果として、息子さんに渡した株の価値の半分近くが税金に消えることになったのです。税負担の総額はおよそ3000万円。「承継してほしい」という親心が、思わぬ形で重い荷物になってしまいました。
業績が落ちた翌期こそが、実は贈与のチャンスになる
多くの経営者が見落としているのが、「株価評価を下げてから贈与する」という発想です。
会社の業績が落ちた翌期は、純資産や利益が減少するため、株式評価額も自然に下がります。同じ株数を贈与しても、評価額が下がれば課税対象の金額も小さくなり、贈与税は大きく圧縮されます。
もちろん、わざと業績を落とすわけにはいきません。ただ、自然な業績の波を見ながら「どのタイミングで贈与するか」を戦略的に検討することは、何ら問題のない合法的な節税手法です。タイミング一つで、数千万円の差が生まれることもあります。
事業承継税制を使えば、贈与税を猶予・免除できる
さらに見落としてはならないのが、「事業承継税制」の活用です。
この制度を使うと、後継者が自社株を承継する際に発生する贈与税・相続税の納税を猶予し、条件次第で免除することができます。手続きや要件は複雑ですが、適切に申請すれば、数千万円規模の税負担を事実上ゼロに近づけられるケースもあります。
ただし、この制度には事前の申請が必要で、贈与前に都道府県知事への認定を受けなければなりません。「後から申請しよう」は通用しません。先ほどの65歳の社長も、制度の存在を知っていれば選択肢になり得たはずです。
贈与前に確認すべきこと
株式贈与を考え始めたら、まず以下の点を税理士と確認してほしいのです。
- 今期・来期の業績見通し(株価評価への影響を把握する)
- 事業承継税制の適用要件を満たしているか(事前申請が必要)
- 後継者の個人資金力(税負担をどう賄うかの算段)
どれか一つでも確認せずに実行すると、この社長のように「後で気づいても遅かった」という状況になります。自社株の贈与は、いったん実行したら原則取り消しができません。慎重に動くに越したことはないのです。
承継計画は「余裕があるうち」に始める
事業承継でよくある失敗パターンは、「まだ先のことだから」と後回しにした結果、健康上の理由などで急を要する事態になり、最悪のタイミングで動かざるを得なくなることです。
業績が好調で、社長も元気な今こそ、余裕を持って承継計画を立てる絶好のタイミングです。5年後、10年後を見据えた株価コントロールと制度活用の組み合わせを、今から税理士と一緒に描いておくことをお勧めします。
3000万円の差は、「知っていたかどうか」と「いつ動き始めたか」で生まれます。まだ具体的に動いていないなら、まず税理士に「事業承継税制が使えるか」を相談することから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。