先日、知人の税理士からこんな話を聞きました。福岡で建材の商社を30年以上経営してきた社長が、67歳で体調を崩し、そのまま他界されたと。

残されたのは一人息子さんだけ。会社もそれほど派手な経営をしていたわけではなく、「まあスムーズに引き継げるだろう」と思われていたそうです。ところが相続税の申告を進める中で、大変な事実が判明しました。

資本金1,000万円なのに、評価額は1億5,000万円

その会社の資本金は1,000万円でした。創業時に出した元手の金額です。普通の感覚で言えば、「1,000万円の株を相続する」くらいのイメージを持たれる方が多いでしょう。

しかし税務署から提示された評価額は、1億5,000万円。資本金の15倍です。

なぜこんなことが起きるのか。それが「純資産価額方式」という、非上場会社の株価を算定するときに使われる評価ルールです。

30年分の内部留保が、静かに株価を押し上げていた

純資産価額方式をざっくり言うと、「今この会社を清算したら、株主にいくら戻ってくるか」をもとに株価を計算する方法です。

創業から30年、田中社長はコツコツと利益を積み上げてきました。豪華な社屋を建てるでもなく、役員報酬を湯水のように使うでもなく、堅実な経営を続けてきた。そのおかげで会社の内部留保は毎年少しずつ積み上がり、帳簿上の純資産は気づかないうちに大きな額になっていました。

この「30年分の内部留保」が、そのまま株価の評価に乗ってくるのです。

社長本人にとっては「会社の財産」のつもりだったものが、相続税の世界では「株主個人の財産」として評価される。この認識のギャップが、相続税の衝撃を生み出します。

計算してみると、5,000万円の請求書

田中社長の場合、自社株1億5,000万円に加え、自宅や預金などを合わせた相続財産の総額は2億円を超えました。

基礎控除を差し引いても課税対象の財産は相当な額が残り、相続税は約5,000万円。

息子さんは会社を引き継ぎながら、この5,000万円をどこから工面するか、という問題に直面しました。会社のお金は使えません。相続税はあくまで個人として払う税金だからです。手元の現預金だけでは到底足りず、不動産を売るか銀行から借りるか——突然の話に、息子さんは頭を抱えました。

「3年前に動いていれば」という一言が刺さる

この話で最も胸に刺さったのが、「3年前に動いていれば、もっと違う結果になっていた」という税理士の一言です。

事業承継税制の特例を活用すれば、一定の要件を満たした後継者への自社株承継において、相続税・贈与税の納税が猶予(場合によっては免除)されます。この特例を使うには「特例承継計画」を事前に税務署へ提出しておく必要があります。

また、株価が高くなる前に計画的に株を移転する「株価引き下げ対策」や生前贈与との組み合わせも、早く動くほど効果が大きい。対策は「渡す前」にしか打てない——これが、自社株の相続において最も重要なルールです。

「うちは大丈夫」が一番危ない

「うちは資本金が少ないから関係ない」という認識は、大きな誤解かもしれません。

毎期しっかり利益を出し続けて内部留保が積み上がっている会社ほど、純資産価額方式による株価は高くなります。優良な経営を続けてきた会社ほど、相続リスクも高くなるという皮肉です。

まず自社株の評価額を一度試算してみてください。直近の法人税申告書(別表5-1)があれば、おおよその純資産額はすぐに把握できます。そこから「今もし自分が倒れたら、後継者に何千万の請求が来るか」を数字で見てみる。それが対策を考える最初の一歩です。

まだ一度も自社株の評価額を確認したことがないなら、今期中に顧問税理士へ試算を依頼しておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。