先日、食品加工業を営む60代の社長とお話しする機会がありました。5年後の引退を見据えてM&Aも検討されていたのですが、ふとこんな一言が出てきました。

「業績がよくなればなるほど、相続税が怖くなってくる気がして……」

この感覚、正しいんです。非上場会社のオーナー社長にとって、業績向上と相続税は切っても切れない関係にあります。そしてその対策には、「3年前から動く」という時間軸が非常に重要です。

非上場株の評価は純資産がそのまま株価になる

上場企業なら、株価は市場が毎日更新してくれます。でも非上場会社の株式評価は、税法に基づく計算式で決まります。

中小企業の多くに適用される「純資産価額方式」では、会社の資産から負債を引いた純資産が、ほぼそのまま株価に反映されます。つまり、業績がよく利益が出るたびに内部留保が積み上がり、株式評価も上がっていく構造です。

会社の評価が上がることは経営者として誇らしいことです。ところが、事業承継や相続の場面では、株式評価が高いほど相続税も増える。後継者や子供に株を渡すとき、その重さがそのまま税金の額になって返ってくるわけです。

出口3年前に賢い社長がやること

では、この問題に対して何ができるのか。出口を意識し始めた社長が実践しているのが「戦略的な設備投資」です。

機械装置、業務用車両、社内システムの刷新——こういった投資は、支出した分だけ現預金が減り、純資産が圧縮されます。現金1,000万円が機械1,000万円に変わるわけですが、税務上の評価額は現金より機械のほうが低く計算されるケースがあります。

これが株式評価の圧縮につながります。しかも、どうせ必要な設備投資を「この3年のうちにやる」という判断なので、無駄な出費ではありません。事業にとっても節税にとっても、一石二鳥の対策です。

3,000万円の圧縮で、相続税がどう変わるか

仮に設備投資などで純資産を3,000万円圧縮できたとします。相続税の税率が40〜50%の範囲にある場合、単純計算で1,200〜1,500万円規模の節税効果が生まれる可能性があります。

「そんなに変わるの?」と驚かれる方も多いのですが、純資産価額方式の恐ろしさはここにあって、資産が大きければ大きいほど圧縮効果も大きくなります。会社を大きくしてきたオーナー社長ほど、早めに対策を考えるべき理由がここにあります。

3年という期間があれば、計画的に複数の投資を分散して実行することもできます。1年で3,000万円を一気に動かすより、3年で1,000万円ずつのほうが事業計画としても自然ですし、税務上の説明もつきやすくなります。

「節税のためだけ」はNG——税務署が見るポイント

ここで絶対に押さえておきたいのが「否認リスク」です。

設備投資が「節税だけを目的とした行為」と税務署に認定されると、その効果を否認される可能性があります。税務署が確認するのは、「その設備を実際に事業で使っているか」「事業上の合理的な必要性があるか」という点です。

使いもしない機械を購入する、売却直前に不自然なほど大規模な投資をする——こういったケースは危険です。あくまで「事業に必要な投資を、タイミングよくやる」という形でなければなりません。

また、出口の形がM&Aなのか事業承継なのかによっても、最適な対策は変わってきます。M&Aの場合は買い手側の評価ロジックも絡んでくるため、出口戦略に詳しい税理士との連携が欠かせません。

引退を考え始めたら、今が動くべきタイミング

出口の3年前というのは、「まだ時間がある」ように見えて、対策を実行するには最後のチャンスに近い時期です。引退直前の投資は節税目的と疑われやすく、M&Aの交渉が始まってからでは手が打てません。

「いつか引退を……」という段階でも、まず現在の株式評価がどのくらいかを専門家に確認してもらうだけで、何をすべきかが見えてきます。出口を意識し始めた今が、最もコストパフォーマンスの高い相談のタイミングです。出口戦略を専門とする税理士に、一度現状を診てもらうことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。